MATさんの「世界選手権潜入記録 7」


3月27日()女子フリー

何だかんだ言っているうちにヘルシンキ滞在もあと2日。だというのに街を色々歩きはしたが、観光らしい観光を全くしていない。いくらスケートを見に来たとはいえ、これはやばい。いいかげん今日はどこか観光地へ行って、お土産も全部買ってしまわねば。
よくしたもので、ユースホステル内にある自炊用の食堂で一緒に朝ご飯を食べたアメリカ人のAmy(ショートで本田君にぬいぐるみを投げたAmyとは別人)が、「Photo Museumがすごくおもしろかったよ」と教えてくれた。

このPhoto Museum、南東部の観光スポットではなくヘルシンキ市内の南西の端にある工場の建物の中にあるので私が持っているガイドブックには載っていなかった。場所を教えてもらい、トラムを乗り継いで行った。どこから入るのがわからず少し迷ったが、着いたのは朝の10時。ここをじっくり見て駅前に戻って、買い物をしてから女子フリー。今日のスケジュールは完璧♪
「Open at PM 0:00」…女子フリーは1時からなんだよっ!

いまさら観光スポットに行く気にもなれない。こうなったら歩いて駅前まで戻りながら裏のヘルシンキを満喫してやる。(観光は?)

いかにも「ヨーロッパ〜」的街並みのヘルシンキだが、さすがに中心部を外れるとこういう普通というか、近代的なアパートもあるようで。意外に多かった中華料理店。赤い作りの店ならたいていそう。



行きのトラムの窓から「ここ何だろう」とチェックしていたら墓場だった。奥の建物が気になってそこまで入っていきたかったのだが、雪が深くて断念。
その日に降った雪はコンクリート上ではその日のうちに溶ける(溶かしている?)が、土の上だとそうはいかない。この日は天気がよくてダウンを着ていると暑いほどだったのだが、やはり北極圏の国。根雪はまだまだ溶けていない。
リスが雪にズボズボ埋もれながら高い木の根元を走っていく。「死んだら海に灰をまいてほしい」と思っていたが、こういう所で眠るのも悪くない。

さすがに疲れてきたので途中からトラムに乗った。


小話・7
ヘルシンキで見かけたおばあちゃんは軒並み美しかった。
つやのある生地のシンプルな黒や茶色のコートに紫色や濃い緑色のあたたかそうで品のある帽子。たまにスカーフをした人もいる。化粧もバッチリしているが、不自然な青いシャドウを入れる人なんぞ一人もいない。写真を撮らせてもらえばよかった。
こういうおばあちゃんに道を訊ねるために話しかける時には「Excuse me,」のあとについ「lady」という言葉を付け加えてしまう。「Lady」に礼節をもって接した「Gentleman」の心理がわかったような気がした。(あんた女だろうが)
一方「Lady」と「Gentleman」の存在を水面下に持つ文化圏で育った女はこうなるのかとも思う。卵が先か親が先かの話だろう。

―――などと勝手に浸っていたが、要は梅田や三宮(関西在住なもので)へ行く時に普段より少しおしゃれをして行くのと同じ事か。某業界の方に半日で飽きられようが、「こういう催し物(世界選手権)でもしないとどんどんさびれる」と言われようが、やはりヘルシンキは一国の首都、都会なのである。



ヘルシンキ中央駅から少し歩いた「三人の鍛冶屋」の銅像がある広場で五人組のミュージシャンが民族色のある音楽を演奏していた。風船売りの女の子や露店も出ていて、物静かな印象があったヘルシンキも週末にはそれらしく賑わっている。

人込みに押されるようにしてデパートに入る。狙いは文房具店。行ってみたら、まあ!
とにかく小物が可愛いのだ。例を挙げるならペーパーナフキン。ムーミンやそういうキャラクター物じゃなくて、濃い色の地に写実的なタッチの花や子犬や子猫がかなり鮮やな色ででかでかと描いてある。にもかかわらず原色を使っていないせいかうるさくなくて、さすがガイドブックに「北欧グッズはセンスがいい」と書かれるだけのことはある。食卓やラッピングに使えばかなり華やかになることうけあい。

それ以外にも広い店内をちょっと歩けばもっと安くてお土産によさそうなものを見つけ出してしまう。デパートで売られているということもあるが、センスがいい代わりに決して安くはないのでそう簡単に踏み切ることができない。
(実は高級デパートだったのかもしれない。店員の名札に「○○語が話せます」というのをアピールするような国旗のバッジが少なくても2個、多い人は5個ぐらいついていたから)

やーんちょっとどれにしよう?あれもほしいしこれもほしい。安いのをいっぱい買ってプレゼントする範囲を広げようか?そろそろいいかげんに決めないと。時計を見てみたら。
…12:30。
女子フリーは1時から。確かすぐりんの順位って第1グループだったはず…やばい!これで第1滑走なんてことになったら演技に間に合わない!!

結局何も買わずに駅までダッシュ。こんな時に限って電車がない。
すぐりんお願い、第1滑走は引かないで〜じゃなくて、第1滑走でもなんでもいいから、すぐりんの演技には間に合って〜〜〜!


走り込んで第1滑走のすぐりんにぎりぎり間に合った。ぜぇぜぇ。
やはり観戦と観光のバランスをとるのは難しい。

ラウトワがいきなりフリーで調子を上げてきた。予選、ショートと調子が悪そうだったのでこの日の写真は完全にノーマークだったのに。フリーの写真を撮ればよかった。私にとってラウトワといえば「せーのっ!」というあのジャンプの構え。写真に撮ろうとねらっていたのに、結局お目にかかれずじまいだった。コーチに言われて直したんだろうか?

女子フリーのレポートで彼女を書かないわけにはいかない。ルシンダ・ルー!
GPシリーズで放映された彼女の演技を見たことがあるが、実はその時何も印象に残らなかったのだ。予選でスピンがすごいことを初めて認識。スピンがすごい選手というのはどっしりした体型が多いというイメージがあったので余計に驚いた。
何がすごかったって、フィニッシュへ向けてのスピン!






これで回る。












これで回る!












これで回る!












最後にビールマン!!





いやー…すごかった。会場の盛り上がりも。
点数に会場全体でものすごいブーイング。ジャンプで転んだのは覚えているが、あまりのスピンのすごさに点数が妥当かどうか考える余裕もない。


最終グループの選手、去年から髪を少し伸ばしたマリニナを除けば見事に全員ショートカット。ここまで流行していたのか。メンバーが変わったというのもあるだろうが、一年前のオリンピックフリーの最終グループとはえらい違い。マリニナだって肩までもないし、あのシニヨンはどこへ行ったんだ(笑)?
しかしさすがに可愛い子や美人ぞろい。みんなそれぞれ似合っている。元がいいと何をしても似合うという事か(^^)。

マリニナ。どうしちゃったの!?もちろんいい意味で。

彼女を初めて見たのは長野オリンピック。その時アラジンの演技から受けた印象は、「ちょっとアラビア色を取り入れてみたの。どう?」と落ちついた、そしてお茶目に微笑むお姉さん。ベテランの味とはこういうものかと思っていた。

生で見たせいもあるかもしれないが、何か動きの大きさが違う。一つ一つの振り付けに、「私を見て―――!」と言わんばかりのものすごいオーラというかテンションというか。大技を入れたわけではないし、私は長野の彼女しか知らないが、昔から高い評価を受けているらしいから急にうまくなったというわけでもないのだろう。振り付けも去年からそう変わっていないはずなのに、この変わりようは何!?シーズン始めの5位だったスケートアメリカの時もこんなに飛ばしていたわけ?
彼女にとってアラジンはもう簡単すぎて力をもてあましているように見えて仕方がない。あなたそれだけパワーあり余ってるんだったら終盤の所立ち止まってないで滑りなさい(笑)!ベテランの味なんてとんでもない、あれは若手の勢いだ。

彼女が優勝圏内にいないということが信じられない。もちろんこの試合の彼女自身、それ以外の選手に対するこれまでの審判は妥当だと思う。ただtechnical meritやpresentation、プラス好みや人気とは別の次元に存在する得点や順位というものがあるのだと、以前から薄々思っていたことがこの時形になった。
歓声の大きさはそれの表われだったと思う。

本当に去年とどう変わったのだろうか。マリニナのインタビュー記事があったら読んでみたい。あれだけはしゃぐ可愛らしい彼女、話が聞けたら面白そう。これだけブレイクしたんだから、このあとのオフシーズン逃す手はないよなフィギュア雑誌の記者!


気分も調子も波が激しそうなギスメロリ。予選(遅刻して見てないけど)とショートでいい感じで来ている。ひょっとして、これはメダル?と思ったらフリーで転んでしまった。大崩れしたわけではないのだが、その前のマリニナがよかっただけに落差が大きく見えてしまう。
ローザンヌのTV放送で初めてギスメロリを見た時に、「この子キャンデローロと同じ匂いがする…というか、キャンデに似てる!」と思った。練習しているリンクが同じとか、振り付け師やスタッフに兼任している人がいるとか、実はキャンデのファンとか、絶対何かつながりがあると思うのだが。誰か知りませんか?(自分で調べろよ)
次のシーズンはもうちょっと安定するだろうか。

ロシアカップの放送では印象がなかったソルダトワ。しょっぱなのトリプル+トリプルのコンビネーションは本当に鮮やか、「おお!」という感じ。ジャンプで大技を持っているようには見えなかったので、余計に驚いた(こんなんばっかし^^;)。途中までは「これ優勝するんちゃう!?」と少し冷や汗をかいていた(ごめんね)。踊っているし、可愛らしいし、なんで気づかなかったんだろう?
しかし彼女が出てくるとスルツカヤとソコロワが…二人とも好きだからなあ…これからロシア女子、恐怖の四、いやボルチコワも入れて五つ巴になるのか…(泣)。


ブティルスカヤ。絶好調ではないとか思い切り慎重に滑っているんだなとか思いはするのだけど、そんなことはどうでもいい。
マリニナの時は演技の勢いに盛り上がったが、この時は見とれていた。シャッターチャンスを狙う精神的余裕もなくて、ひたすら写真を撮りまくる状態。現像するとピントが必ずずれているし、アップでちゃんと顔が映っているのがほとんどなかった。でも後ろ姿でさえ何か香りが漂ってくるような。
こんなに美しい人だとは知らなかった。もうこれしか書けない。


優勝が決まってしまうと後に誰が控えていてもどうしても気が抜けてしまう。男子の時にも思ったが、最終滑走は上位3人の誰かになるように抽選の仕方を考えてほしい。それ以上にあのブティルスカヤの後に滑った二人はくじ運が悪かった。

だってレクニオ。やめてよ今さらバリバリのクラシックとひらひらピンクの衣装〜(泣)。確かに去年より手が綺麗になって、優雅な曲調からずれてはいないけれど、何か無理矢理合わせているように見えて仕方がない。パワフルな人なんだから、去年のフリーのタンゴみたいにそれを生かしてほしい。「表現力」の枠に閉じ込められて個性が殺されていく女子選手を見るのはもうたくさん。
ううう(泣)。

ミシェル。
きれいなんだけど、今回は仕方がない。これは競技だから。
しかしこれから先大丈夫なんだろうか。大学の授業が入ったらますますきついだろうなあ。

実は男子フリー以降あまりまじめに得点の掲示板を見ていない。ミシェルの得点が出るまでの間もブティルスカヤ以外の順位の並びをほとんど把握していなかった。ギスメロリを抜いたから(これは教えてもらった^^;)、マリニナ銅メダル取れるね。よかった…と思っていた矢先の得点、そして最終順位。一気に神経がブチ切れる。
いくらミシェルは好きでもこれは許せない!!

こういう時に周りに話ができる人がいるというのは本当に助かる。物の見方が違う人だとなおさら。「本人納得していると思う?」という言葉でなんとか冷静になれた(つもり)。
点数は選手がジャッジに頼んで出してもらうものではない…

なのに表に立つために点数への批判を浴びてしまう。選手自身もどうしようもないことなのに。もしミシェル自身が納得していないとしたら、表彰台はそれこそ針のむしろになるだろう。ミシェル自身がどう思ったかを考えるのは意味がないからここまでにしておくが。
好きな選手が不当に低い評価を受けるのは辛いが、不当に高い評価を受けるのもやりきれない。これでダーティーなイメージがついたらどうしてくれる。
ミシェルの選手生活、ますますこれから先きつくなるぞ…

それにしても後でもめそうな結果の多かった今回の世界選手権。 せめて男子は文句の出ようがない決着のつき方でよかった。


表彰式を待っている間も気持ちの整理がつかない。
メダルを受けるミシェルに対して「銀メダルおめでとう」とは思えないのだ。かといって審判への抗議の意味であってもブーイングを飛ばすことはできない。クリロワ組の時のようなどす黒い歓声を浴びるミシェルを見るのは辛い。
こんな気分のままでは表彰式を楽しめないだろう。このまま帰ってしまおうか。それもできない。
「Silver medalist, Michelle Kwan!」と紹介された時に観客はどう反応するのだろうか。表彰式が始まるのが何かしら怖かった。

結局ミシェルを包んだ歓声は普通のものだった。
まあ会場のアメリカ応援団の割合は高いから。

というより文句なしのブティルスカヤの優勝で、会場が素直にそれに賞賛を送っていてミシェルの事にはこだわっていなかったというのが本当の所かもしれない。
また本当に嬉しそうなブティルスカヤを見ていると、マイナスの方向に考えて気分を暗くするのはよそうと思えてくる。

11時過ぎに終わる他の種目とは違い、夕方に行われる女子の表彰式は帰る時間を心配しなくていい。

表彰式、ウィニングランが終わって表彰台などが全て片づけられたた後も結構な数の観客が残っていて、リンクのすぐそばからメダリストを呼び寄せては写真を撮らせてもらっている。一番呼ばれる回数が多いのはもちろんブティルスカヤ。またそれに応える彼女の姿はひときわ輝いている。
新しい女王のもう一つの即位式。大阪Ex.で演技後の彼女にティアラを贈った人達の事をふと思い出した。今あったらちょうどいいのに。
いつまでも続きそうな光景だった。でももうそろそろ帰らないと。

帰りがけに必ず目につくおばあちゃんが一人いる。
会場にいる年配の女性のスタイルはセーターがトレーナーの思い切りカジュアルなものか、ジャケットを着たちょっとかっちりした格好のどちらかに分けられる。
しかし彼女の格好はどちらにも入らない。よれよれの服、編んだ三つ編みもほつれがちで、街を歩いてもまず目にすることのなかった服装。私が会場に入る時には必ず席に座っていて、鋭い目でリンクを見つめている。隣の人と話をすることもなく、世界に入り込んでいて少し不気味な印象があった。

今日も彼女は席にいる。横を通り過ぎた時に彼女が一言叫んだ。
「Bravo, Malia!」
彼女が発した唯一最大の賛辞の言葉ではないかと思う。
根拠はない。

おめでとう、マリア。


ところで。
今日の晩ごはんどうしよう。

これまでは試合会場で晩ごはんを食べていたので、必ず誰かがいっしょだった。しかし今日は明るいうちに試合が終わってしまったので一人でどこかに食べに行かなければいけない。
海外旅行の前にガイドブックを一通り読みはするが、レストランの所は見事にすっ飛ばして行き当たりばったりの店に入るタイプ。今さら読んでチェックするのも面倒くさいし、そもそも小心者(笑)の私にレストランに一人で入る度胸はない。かといってファーストフードもスーパーで買って帰って宿で食べるのは絶対嫌。いい加減に普通のごはんが食べたい。しかし日本料理と中華料理は避けたい。要領悪いなあ。いいんだ、一人旅なんだから気のすむように行動すれば。

暗くなっていく大通りをあちこち歩き、なんとか気軽でイタリアンな感じの店を見つけた。しかしここ、レストランというよりはバーだった。竜を避けて虎穴に入るとはこの事か。

まあ若者がたむろしているにぎやかな店なのでよしとしよう。店の兄ちゃんに変な顔をされたがペンネを注文、礼儀上グラスワインを追加。しかしグラスワインが日本の1.5倍くらある。
スケーター達に乾杯。全部飲んだ。そこまではいい。
勘定をするために立ちあがった瞬間、足元がふわり。え?これはひょっとして、酔っ払ったっていうやつ?
うそ―――!?私いつもこれくらいの量じゃ酔わないのに!
一人旅は自分がつぶれても誰も助けてくれないっていうのに、試合が終わって油断したか。

足元がふわふわしつつ、粗食が続いたからアルコールの分解能力が落ちたんだろうと妙な分析をしてトラムに乗る。酔い覚ましと空港バスの停留所の場所確認をかねてホテル・インターコンティネンタルの前の停留所で降り、そこから10分ほど歩いて宿へ帰った。

今ごろスケーター達も打ち上げしているのかしらねえ…

(続く)

追記:
前回の女子ショートでソルダトワのことを「ジュニアから上がりたて」と書きましたが、前のシーズンにヨーロッパ選手権に出ていたのでそうではないかもしれません。ヨーロッパ選手権への出場資格について確認しないまま書くのも気が引けるのですが、ショートを見ていた時にはそう思っていたので、まちがえていたとしてもあえて訂正はしません。ご理解ください。

しかし私、ミシェルへの書き方に容赦がない。エルビスより容赦がない。いくら好きだから正直に書いたとはいえ、やっぱりタチの悪い…
 

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