「なぜ山に登るんですか?」
「そこに山があるからさ」
世界最高峰、チョモランマの初登頂を目指して命を落としたある登山家の、名前より有名なこの言葉を自分なりに解釈できる日が来るとは思わなかった。
おことわり:
フィギュア生観戦を3回しかしていない私が、いきなり世界選手権に行ってしまいました。当然演技内容をしっかりレポートできるほどフィギュアを見る目が肥えていません。幸いエルビスの演技はショート、フリー、エキシビション全て放送されたことなので演技内容の解説は他の方にまかせて、「世界選手権に飛び込んでしまった人間のドタバタぶり」を書こうと思います。
エルビスがらみだと頭にすぐ血が上り(「別にストイコがらみじゃなくても」友人談)、加えて海外旅行だとテンションが2割増しになる私。今思えばとんでもないことをしたり考えていたりもするのですが、嘘を書いても仕方がないので。行ったことのない方は「こういう人でも世界選手権へ行って大丈夫だったのだから」と希望の灯をともしていただけれれば幸いです(笑)。
(3/21・22)(3/23)(3/24)(3/25 Part1)(3/25 Part2)(3/26)(3/27)(3/28)(3/29)
- 3月21日(日)移動
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- 関西空港発ヘルシンキへの直行便は関空発水曜日と土曜日、ヘルシンキ発は火曜日と金曜日しかない。そこで毎日フライトのある、アムステルダム経由のKLM
ロイヤルオランダ航空に乗った。
国際線の楽しみに機内映画をあげる人は多いが、私は映画に見入りすぎて気分が悪くなるので極力見ないようにしている。
ところがアムステルダム行きの飛行機は席が通路側だったので、モニターの映像が嫌でも目に入ってしまう。1本目と2本目の映画の間に短いドラマが流れていたのだが、そのドラマにエルビスに似ていると評判のメル・ギブソンが出ていた。確かにどこか似ている。映画俳優であるだけにエルビスより顔が端整だが、エルビスの方が断然いい顔だ。どっちにしてもこれは吉兆かも。
それから眠るつもりだったのに妙に目がさえてしまい、結局2本目の映画を見てしまった。当然気分が悪くなり、「まだアムステルダムで4時間待たなきゃいけないのに、私ヘルシンキで生きてるんだろうか。一人旅なのにのっけから浮かれて大きなミスを」という状態に。
ところが空港でのこの長い待ち時間が幸いした。アムステルダムの空港のイスでトータル3時間爆睡してすっかり元気回復し、この空港は宣伝文句の免税店だけでなくイスの数、座り心地も世界一充実している事を実感した。人生何がどう作用するかわからない(笑)。
アムステルダムからヘルシンキへの飛行機は機内映画もイヤホンの貸し出しサービスもなく、ほとんど国内線のノリ。空港からバス、タクシーで予約していたホテルへ向かった。
さすが3つ星、1泊1万円ちょっとの値打ちはある。「1泊だけじゃもったいない、大会中ここにいたいよー!」と部屋のきれいさに一通りはしゃいだあと、寝る。
- 3月22日(月)男子シングル予選、ペアショート
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- 振り返ってみれば無謀な計画をたてたものである。
最初の夜だけ宿を予約しておいて、次の日の朝に現地で安宿を探すなんて。
万が一予選に間に合わずに何人か見逃して、エルビスもその中にいたりしたら悔やみきれない所だった。
ヘルシンキ中央駅内のホテル予約センターに朝9:30に飛び込み、「1泊300マルカ(6-7000円)程度のホテルありませんか?」と受付のお姉さんに泣きつく。世界選手権でヘルシンキのホテルは満室状態、ユースホステルぐらいしかないとのこと。なんとか空きベッドのあるユースホステルを見つけてもらったのが10:00、会場とは逆方向のそのユースホステルに行ってチェックイン、部屋には入れないので荷物だけ預かってもらう。
結局会場に着いたのは男子シングル予選が始まる11:00ちょうど、なんとか第1グループのウォーミングアップに間に合った。
通路を走りながら取ったオーダーシート、予選A組の中にエルビスの名前はない。当分先だと安心していたら演技はB組から始まった。息は整ったがカメラに慣れないうちに第1グループが終わり、第2グループへ。
第1滑走のエルビスが真っ先にリンクに入る。また服が変わっている。でも今回の服は好きなタイプ。案外この手の服も似合うのか。(エルドリッジの色違いって言ったら怒ります?)臙脂色の地に浮かび上がる金色のグリフォン。袖のつややかなクリーム色と臙脂の組み合わせが綺麗。
オープニングのフリップ、クワドがきまった。ところがその後がいけない。途中のトリプルで1回ミス(両足着地か手をついたか)、2度目のクワドで転倒。
私の席からはKiss & Cryが見えない。中央の天井に大きなモニターがあるのだが、何も映し出されない。初日でオープニングセレモニーより前の男子予選だから、会場側も手抜きしたのだろうか。おかげでどんな様子だったのか全くわからなかった。ただ引きあげる時にKiss
& Cry脇の観客席からファンに呼ばれたのに気づき、プレゼントをもらってハグしてあげる余裕はあったようだ。
とにもかくにもあっという間にエルビスの演技が終わってしまった。しばらく頭が呆けていたのだが、エルビスにプレゼントを渡しているファンを見て現実世界に戻る。
メッセージをリンクに投げるの忘れてた!
せっかくエルビスの誕生日だっていうのに、せっかくよるさんにお願いしてホームページにコーナーまで作ってもらって他のエルヴィストの方から集めたメッセージだっていうのに、袋に詰め替えて演技が終わった後リンクに投げるつもりで持ってきていたのに、すっかり忘れていたのだ。みなさんごめんなさい。この時は頭抱えました、本当に。
初出場の世界選手権で会場の雰囲気に慣れる前に試合が始まってしまい、力を出せないまま予選落ちして会場を去らなければいけないスケーターはこの時の私みたいな状態なのかもしれない。一回だけというのは酷い。
幸い私にはまだチャンスがある。ショートもフリーもあるし、それにメッセージを手渡ししようと思ったらあの場所からできるのがわかったのだから。
予選B組の第1グループに郭君、第2グループにエルビスと旗を振って応援する対象が続けて出てしまったので何かしら気抜けした感じ(カナダの後輩サンドゥ君には振りましたが)。
しかしそれならそれで気楽なもの。あとはひたすら観戦を楽しむだけ。実は私、男子シングル予選が一番見たかったのだ。
印象に残った他の選手をだらだらと。
- 郭 正新(中国)
今シーズンは今さらジュニアの試合に出るわ、GPシリーズには出ないわで「どうなってるんだ!」と色々気をもんでいた。(ね、ぶうたろうさん)国内タイトルは取っていたようで、NHK杯3位、四大陸選手権2位の李
成江にかわって世界選手権に出てきた。
去年と全く同じプログラムで衣装が違うだけ。黒のタートルの半袖、ボトムとシンプルにまとめていて私としては好みの衣装。光り物もつけている。ゴールドだったらもっとよかったのに(笑)。妙に肌もきれいになって、おいおいどうしたの。
同じプログラムなだけに成長の度合いがわかる。強引に氷をひっかいて進んでいた去年と違い、やっと「滑る」ということを身につけたという感じ。手足がまた少し伸びたのか、スパイラルも映えるようになった。
でもプログラムが変わっていないのはオフ中にケガをして、練習ができない時期があったんだろうか?この子のジャンプがダブルになるなんて。心なしか全体的に高さも低い。まあ少々低くなろうがジャンプの安定感はあいかわらず抜群、スケーティングがきれいになったのであまり気にしないことにする。
- David Del POZO(メキシコ)
メキシコから代表が出ているとは思わなかった。
どんな演技だろうと注目していたら、指先まで優雅な流れるような演技。これくらいの点数の選手には珍しく、見ていてきれいと思える。見入って写真を撮るのを忘れ、後ろ姿しか撮れなくなるほど。
ただジャンプがダブルどまり。確かに点数は稼げない。残念。
- ドミトリー・ドミトレンコ(ウクライナ)
独特のお茶目な表現と勢いのあるステップで結構好きな選手。
オリンピック以来動向がわからずに気になっていたら、GPシリーズには出ていたらしい。曲が「ロミオとジュリエット」と珍しくクラシック。振り付けも彼自身の味を残しながらも妙に正統派。充実した作りであいかわらず見ていて楽しかった。ジャンプが安定すれば、いい線行くんじゃないだろうか?
がんばれ、ドミドミ!
- アンソニー・リウ(オーストラリア)
オーストラリアに移住し、市民権を取った中国生まれの彼は長野オリンピックにもオーストラリア代表として出場していた。
どこか野暮ったさが抜けないものの(中国男子の特徴か?)、その時と変わらないはつらつとした演技。19-20歳と思っていたら1974年生まれというのにはびっくり。やはりアジア系は若く見える。(日本人に言われる筋合いはないか)オーストラリア応援団の声援を受けて、予選B組エルビスに続いて堂々の4位。
愛されてるね、よかったね。
- リー・キュヒュン(韓国)
毎年(?)TVに映っている大きな韓国国旗に「韓国から選手出てるの?」と不思議に思われる人もいるだろうが(2年前の私がそうだった)、今回は男子、女子、アイスダンスに選手を派遣していたのである。
長野オリンピック、ショートプログラム「X-File」のあまりに変な色気…もとい、独特の演技と容姿、お隣の韓国ということもあってこれから先注目せざるをえなかった選手。
今回は髪の毛を短く切って普通の路線。あの特色が消えてしまったのは少し寂しいが、滑らずに怪しげなポーズをとっている所がなくなって、シンプルでもとにかく滑っていた。その点では成長したと見ていいだろう。独特の体勢のスピンで拍手をもらっていた。
予選通った!参加人数多いから心配していたんだよ〜(泣)
- 本田武史(日本)
思わず演技終了直後「エルビス、あんた違う組でラッキーだったよ…」とつぶやいたほど。
ジャンプが乱れた所はあったにしろ、四大陸の勢いは健在。全日本の時の怪我、どこが四大陸出場が危ぶまれるほどだったんだ!?
いや勢いだけではないのだろう。前のシーズンとの違いで真っ先に目についたのが、ジャンプを踏み切った瞬間の「あ、転ぶ!」と思わせる斜めになった体勢がないところ。
筋力がついたんだろうか。
- アレクセイ・ウルマノフ(ロシア)
この日のロシア勢ではプルシェンコ、ヤグディンよりもとにかくウルマノフにピンと張り詰めたものを感じた。
中盤のスローパートはGPシリーズから変えてきたのだろうか?きたよね?すごく綺麗。タンゴの雰囲気が出ていると思う。
憎たらしいくらいお貴族様だった(笑)リレハンメルオリンピックから5年、艶めいたタンゴの雰囲気にも合ういい男になったよね。
エルビスについては四大陸を見た時の印象が強くなったというところだろうか。
今シーズンのエルビスはフリーの中でクワド2回、あわよくば2種類のクワド(トゥループ&ルッツ)を飛ぶという目標を掲げている。
しかし今回のフリープログラム、一昨年のドラゴンハート、去年のゴーストアンドダークネスに比べると…
氷とぴったり密着するような滑りも、空気の色が変わるような表現も変わってはいない。水晶玉の幻影も見えるし火の玉の熱さもわかる。あんな具体的なジェスチャーをとるのは多分初めて、見ていておもしろい。
しかしプログラムを通して考えると、どうもジャンプ優先で他の部分の密度が薄い気がする。
あのドラゴンハートを滑った人である。
あのゴーストアンドダークネスを滑った人である。
あのプログラムに満足はしていないだろうと思う。手を入れられるものならとっくに入れているだろう。足とのかねあいがあるだろう。
そしてエルビスはめったにイージーミス…というか、一つのミスで全体の調子を狂わせてボロボロになってしまうようなことはない。彼の写真集「Heart
and Soul」を読む限り、そういった面での自分のコントロールには絶対の自信を持っている。
その時持っているものをコンスタントに出し切れるスポーツ選手。あんなに長い間トップクラスにいられるのもそれがあってのことだろう。
だからこそ見ているこっちは気になるのだ。
あのオリンピックから1年、エルビスツアー中に1回つぶれてから4ヶ月、見るからに元気のない状態なのに、それでもクワド2回に固執するあたり、なんかバランス崩してないか、本当に大丈夫か?
確かに勝敗や順位に執着せずに、やりたいことをやっているんだろうけれど!
一人で来ただけに頭に血が上って考えが暴走しても、止めてくれる人がいない。挙げ句の果てにはくっつかせてもらった日本人のグループで順位予想の話をしている時に「あれ(クワド2つ)は絶対年寄りの冷や水です。絶対4回転2つに手を出してエキシビ落ちすると思います!」と神経がブチ切れて力説する状態に。
その時一緒にいたみなさん、本当に失礼しました。今さらながら。
男子予選が終わって気が抜けた+旅の疲れが出てきた+ペアについてはほとんど知らないという悪条件が重なって、ペア・ショートの間眠くて仕方がない。自分の席の斜め前方向に「ちょっと危険なNo.2」エルドリッジを見つけても、ベレズナヤ組の演技を見ても眠気が覚めず、他のペアの演技の印象も全くない。あとから思えばなんてもったいないことを。
会場で寝るくらいなら途中で帰った方がスケーターに対する失礼の度合いは少ないと判断し、第4グループの演技が終わった後で宿に帰った。
(続く)
- 追記:
- それにしてもタチの悪いファンだ私は…
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