口腔・咽頭・喉頭・気管・食道疾患のページ

○舌痛症
 舌痛症については、私はこれまで、ビタミン欠乏、微量元素不足が原因と考えていましたが、歯科神経症という考え方があるようです。
 東京医科歯科大の豊福明教授によると、
症状:舌がザラザラ、ピリピリとした痛みを覚える「舌痛症」が最も多い。次いで、口の中がネバネバ、ベタベタ、ザラザラする異常感を訴える「口腔異常感症」、口腔内や歯、あご、顔面に慢性的な痛みがある「非定型顔面痛」、かみ合わせの違和感をうったえる「咬合異常感」などがあるそうで、歯科診療を受けた患者のほぼ10人に1人にみられるという。 症状の程度は日によって変わり、午前中は比較的軽く、夕方から夜に強く表れることが多い。また、食事中やものをかんでいる時、何かに熱中しているときにはあまり感じないのが特徴だ、そうです。
頻度:2007年4月から9月に訪れた新規患者218人中女性が174人で、8割が女性であった。年齢は18歳から87歳までと幅広いが、平均年齢は56歳で比較的中高年が多かった。患者のほぼ7割は歯の治療後に発症している。
診断基準
(1) 口腔内の痛みの場合、痛み止めや麻酔が効かない。
(2) 複数の病院で診察を受けて歯自体に問題がないのに、口腔内に違和感がある。
(3) 歯の治療をしても改善されない。
原因:原因は特定されていないが、脳内の情報伝達に問題があるのではないかと考えられている。豊福教授は「心の問題と一蹴されがちだが、本当に心因性のものは全体の1%程度。歯の治療後の口腔環境の変化に脳が順応できなくなっている可能性が高いと考えられる」と推測する。食事中や睡眠中、何かに熱中して他の回路が活発に動いていると、痛みをあまり感じなくなるためと考えられている。
治療:慢性の疼痛を緩和させる抗うつ薬を使う。日常生活に支障をきたすような場合でも、薬を服用すれば、症状は改善できる。個人の症状に応じて薬の種類を変えたり、薬の量も調整する。最初は少しずつ量を増やし、効果をみていく。症状が出なくなったら、量を少しずつ減らし、3ヶ月から半年後には飲まなくて済むことが多いという。
 2008年9月12日 毎日新聞社

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〇連鎖球菌咽頭炎
@小児科医は連鎖球菌咽頭炎患児の治療にセファロスポリン薬がペニシリン薬の3倍有効であることを再認識すべきである。「連鎖球菌咽頭炎の治療にセファロスポリン薬あるいはペニシリン薬のいずれかが有効であるかを論じた1969年以降の35研究を精査した。これらの研究には患児7,000例以上が含まれ、アウトカムはセファロスポリン薬のほうが優れていた」 Janet Casey:Pediatrics(2004;133:866-882)             Medical Tribune誌より
A薬剤委員会ドイツ医師部会のDieter Adam教授は「連鎖球菌性扁桃炎の患児4,000例を対象として各種抗菌薬を試験した結果、マクロライド系薬やセファロスポリン系薬またはアモキシシリン・クラブラン酸カリウムを投与すれば、連鎖球菌性アンギナはペニシリン系薬よりも短期間で治療可能であることがわかった。これらの抗菌薬を用いた場合、ペニシリン系薬の10日間投与と同等の効果を5日間で達成することができたという。」 Medical Tribune 2006年3月23日号 より

頻度:咽頭扁桃円の中でA群β溶血レンサ球菌(GABHS)が原因の咽頭扁桃炎は、成人では5〜10%、小児では15〜30%である。
続発症:北海道でのアンケート調査では、GABHSによる咽頭扁桃炎で治療を適切に行った症例の中で、10年間でリウマチ熱は2例、急性糸球体腎炎は43例の発症、極めてまれな疾患となった。急性糸球体腎炎は、ほとんどは、自然治癒する病気であること、一回の尿検査で急性糸球体腎炎がないと断言できないことなどから、尿検査をするより急性糸球体腎炎の症状を説明し、症状が出てきたときに小児科医を受診するように説明することが大切である。
 (菊田英明:日耳鼻115:1-7,2012)

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〇慢性(習慣性)扁桃炎
☆口蓋扁桃摘出術の適応

表1 小児,成人における扁桃摘出術(扁摘)の効果
(/年)   扁摘前 扁摘後
@小児
発熱を伴う咽頭痛 (回) 5.9±1.9 1.6±1.5
医師を受診した回数 8.7±4.5 1.8±3.3
学校を休んだ日数 10.2±9.2 1.9±1.8
看護のために両親が仕事を休んだ日数 15.4±5.8 0±0
A成人
発熱を伴う咽頭痛 (回) 5.8±5.2 1.1±1.2
医師を受診した回数 6.7±4.3 1.2±1.7
咽頭痛のために仕事を休んだ日数 8.2±8.5 0±0

         藤原啓次・山中昇:専門医通信 第79号より 

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○扁桃周囲膿瘍
平成5年4月1日〜平成15年3月31日の10年間に自治医大で入院治療した扁桃周囲膿瘍のうち、穿刺または切開で排膿があった41例について、五分粥食完食までの日数、入院日数を検討した。穿刺(13例)と切開(28例)は、食事完食までの日数・入院日数とも有意差がなかった。穿刺は、切開と同等の治療効果があり、切開より低侵襲な手技であることから治療の第一選択として適切である。(金沢英哲,他:第84回栃木県地方部会,平成15年12月14日)
結論:治療法として、穿刺は、切開と同等の効果がある。

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○急性喉頭蓋炎
・病原菌としてはB型インフルエンザ菌が多い。
治療
@ヘモフィルス・インフルエンザ菌に感受性のある抗菌薬の静注投与
A速効性の副腎皮質ホルモンの静脈内投与
  ソルコーテフ200mgまたは水溶性プレドニン100mg: 最高血中濃度到達時間30〜60分
  リンデロン8mg: 最高血中濃度到達時間60分
 喉頭の腫脹が急速にとれる場合がある。
Bネブライザーの連続投与
  ステロイドとエピネフリンの吸入をおこなう。
C酸素吸入
  呼吸困難がある場合には、必ず行う。
(参考文献: 「外来耳鼻咽喉科疾患診療のコツ」全日本病院出版会)
 平成23年9月20日記

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○喉頭肉芽腫症
@成因と分類:
 1)特異的肉芽腫(稀):結核、梅毒、サルコイドーシス、ウェゲナー肉芽腫
 2)非特異的肉芽腫:通常、喉頭肉芽腫はこちらをさす。
   @挿管性肉芽腫:気管内挿管チューブによる声帯突起部付近の粘膜上皮が損傷され、その部位に炎症性腫瘤が生じる。
   A接触性肉芽腫:咳払い癖や慢性咳そう、音声酷使、硬起声発声、Muscle Tension Dysphonia(MTD)などによる声帯後部の機械的頻回刺激により炎症性腫瘤が生じる。
   B胃酸逆流:胃内容物逆流によって起こる。
A症状と診断:喉頭後部、声帯突起部付近に好発するため、声帯膜様部の振動にはあまり影響は出ない。そのため、嗄声を訴える症例は少なく、咽喉頭異常感や無症状がほとんどである。診断は視診でほとんど可能である。喉頭後部に基部を持つ赤色や灰白色の表面平滑な円形腫瘤である。
B治療:音声酷使、胃酸逆流などの是正治療する。手術療法は再発も60%以上と高く、第一選択にはならない。
   @非薬物療法:声の衛生指導、腹式呼吸、リラクゼーション、ピッチ調整
   A薬物療法:・ステロイドホルモン剤の吸入薬(効果が出るまで数ヶ月かかる)
           ・胃酸逆流が疑われる症例ではプロトンポンプインヒビター(PPI)投与。
   B外科療法:レーザー焼灼術は再発率が単純切除と変わらないかそれ以上と報告もあるので最近は使用しない。
  平成22年9月17日 (渡邊雄介:専門医通信 第104号より)

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○声帯嚢胞
先天性の場合: 類表皮嚢胞で、嚢胞壁は重曹扁平上皮で覆われ比較的厚く、外観は黄色ないし淡黄白色である。
後天性の場合: 喉頭内の分泌腺開口部の閉塞による貯留嚢胞で、嚢胞壁は円柱上訴か線毛円柱上皮で覆われ薄く破れやすく淡紅色か透明である。
治療:全摘出。貯留嚢胞では嚢胞壁が薄くて破れやすいので、嚢胞の外側壁とそれを覆う粘膜を切除する。

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○声帯溝症(声帯萎縮)
 声帯膜様部が萎縮してボリュームが減少するため、発声時に紡錘形の隙間ができてしまうため、気息性の嗄声を生じる。膜様部粘膜下組織が萎縮・瘢痕化して、粘膜が溝状に陥凹する。高齢の男性に多くみられる。
治療:
@腹式発声がやや有効である。
A手術治療
a)声帯注入術:萎縮した声帯に注入物質を注入し、声帯のボリュームを増やすものである。注入物質としては、テフロン、シリコン、牛コラーゲンなどが試されてきたが、異物反応を起こすことが危惧され、使用が禁止されるようになった。それに代わって、自家組織である脂肪、コラーゲン、筋膜などが用いられるようになったが、時間の経過とともに吸収消失していくため、定期的な追加が必要になる。
b)喉頭枠組み手術:甲状軟骨に開窓し、軟骨等を挿入して声帯を正中に押し出すことにより、声門閉鎖不全を改善させるというものであるが、声帯の溝、瘢痕にたいする本質的に治療とはなっていない。
c)溝・瘢痕摘出術:瘢痕を剥離摘出する手術であるが、粘膜下組織のボリュームは変わらないので、嗄声には効果が期待できない。
d)声帯内自家筋膜移植術:筋膜を粘膜下組織に移植する方法である。
コメント)当院でも年間に数例の患者をみることがあるが、一部の高齢者に起こる加齢変化と考え、発声練習で経過をみている。手術治療も一部のスペシャリストによって試みられているようであるが、難しいようである。
   2011.11.17 (外来耳鼻咽喉科疾患診療のコツ:全日本病院出版会を参考にしました)

○喉頭乳頭腫
@概念:ヒトパピローマウイルスに感染することによって発症する良性腫瘍である。若年型と成人型に分類される。
若年型:多発性再発性の臨床経過をたどる喉頭乳頭腫症である。生後6か月〜5歳に多く発生する。HPV6型および11型が腫瘍形成に関与しており、尖圭コンジローマに罹患している母親からの垂直感染が原因と考えられている。
成人型:孤立性で角化傾向の強いものは前癌病変として治療する。多発性のものは、再発により治療に苦渋することが少なくない。
悪性転化は26年10か月で77例中9例にみられたという。
A治療:
1)手術治療:治療の主役は手術であり、レーザーを用いたラリンゴマイクロサージェリーが基本である。HPVは粘膜上皮層で発育増殖い、上皮下への浸潤はないため、深部まで焼灼する必要はないことから、炭酸ガスレーザーが選択されることが多い。
2)補助療法:
a)インターフェロン:α型インターフェロンが少なくとも6か月間の有効性が示されている。
b) I3C:キャベツ等の十字花科植物の主成分であり、エストロゲン代謝を調整して抗腫瘍作用を示すI3Cをダイエットサプリメントとして与える治療。
c)Cidofovir:抗DNAういるす薬であるcidofovirの局所注入療法。
d)ワクチン:ワクチン投与により、垂直感染経路による喉頭乳頭腫症の発症を予防することが期待されている。
e)漢方:補中益気湯およびヨクイニンエキスが有効であったという。
コメント)私自身の30年の経験では、数例みたことがあるような気がする。一般外来ではかなり稀な疾患であるかと思うが、念頭におかなければならない。
  2011.11.29 (外来耳鼻咽喉科疾患診療のコツ:全日本病院出版会を参考にしました)

○咽頭・喉頭アレルギー
@概念:鼻腔から咽頭・喉頭・気管へは粘膜で覆われた組織で構成されており、それぞれの場所でアレルギー反応が起こる可能性があります。鼻に起こればアレルギー性鼻炎、気管に起これば気管支喘息です。咽頭・喉頭アレルギーは、アレルギー性鼻炎や気管支喘息に随伴して起こることが多く、その影に隠れて、独立した疾患と認識されることは少ない。気道のなかでも、アレルギー反応が起こる部位が限局していることがあることは、気管支喘息を伴わないアレルギー性鼻炎があることなどより明らかですが、咽頭・喉頭に比較的限局している場合が、しばしばあり、これを"咽頭・喉頭アレルギー"とします。藤村政樹の提唱する"アトピー咳嗽"は喉頭アレルギーと同一のものであると考えます。
A症状:
・咳嗽:アレルギー反応によって、放出されたヒスタミンが咳受容体を刺激して起こると考えられる。アレルギー性鼻炎におけるくしゃみと同様に、異物排除のための反応と考えらます。
・痰は少ない。咽頭・喉頭の粘膜には、分泌腺が少ないので、痰が出ることはない。したがって咳嗽は乾性です。
・粘膜腫脹:粘膜には肉眼でははっきりしないが、発赤腫脹を起こしていると思わます。粘膜腫脹を自覚的には痰が絡んでいるように感じますが、いくら咳払いをしても痰は出ないし、痰が切れることもない。咽喉が腫れている感じを訴えることもあります。
・掻痒感:ヒスタミンが知覚神経を刺激すると掻痒感となります。程度により、イガイガ感からチクチクした感じの咽喉痛にまでなることがあります。
B診断:咽喉頭異常感症と症状が似ているので、鑑別がむずかしい。咽喉頭異常感症の場合の症状は、"アメ玉がつかえているような感じ"のみであり、訴えをよく聞くと鑑別は容易です。
C治療:本態がアレルギーであることから、抗アレルギー剤が有効である。抗アレルギー剤でも、ヒスタミンH1拮抗剤よりもメディエーター遊離抑制剤のほうが有効性が高いように感じます。オレ流には、ペミラストン(アレギザール)を第一選択としています。効果が十分でない場合には、ステロイドの併用が有用です。内服ではセレスタミンを併用しますが、フルタイドなどの吸入剤も効果がある場合があります。
                                               平成19年9月16日

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○下気道アレルギー(耳鼻咽喉科医のための)
 わが国の成人喘息(≒下気道アレルギー)におけるアレルギー性鼻炎の合併率は44〜68%にもなり、一方、アレルギー性鼻炎の7.1%が喘息を合併する、といわれています。耳鼻咽喉科の外来にも、咳を訴えて受診される患者さんがたくさんいます。そのほとんどに下気道アレルギーが関与していると考えます。下気道アレルギーを鼻アレルギー(=アレルギー性鼻炎)と対照して、

鼻アレルギー 下気道アレルギー
異物反応 くしゃみ発作 せき発作
異物侵入防御 鼻閉 気管狭窄
異物排除 水様鼻漏 透明痰

と考えることができます。鼻アレルギーは、くしゃみ・水様鼻漏が多いタイプと鼻閉が強いタイプに分けられ、くしゃみ・水様鼻漏タイプにはT型アレルギー、鼻閉タイプにはV型アレルギーが関与していると言われています。下気道アレルギーにも、せき発作・透明痰が多いタイプと気管狭窄が強いタイプがあり、それぞれT型アレルギーとV型アレルギーが関与していると思われます。
 気管狭窄が強いタイプの下気道アレルギーが一般に言われる喘息であり、せき発作・透明痰が多いタイプの下気道アレルギーは、せき型喘息と考えられます。
 最近、「アトピー咳嗽」という疾患単位が提唱され、気管支拡張剤が無効であるということでせき型喘息と区別されていますが、これは、耳鼻咽喉科で従来から言われている「喉頭アレルギー」と同じ病態であり、喉頭部に限局したアレルギーと考えます。
 下気道アレルギーを疑わせる症状としては、
@夜間を中心に咳き込みがある。悪化すると喘鳴、呼吸困難を起こす。
A運動、会話、受動喫煙、冷気・暖気、飲酒、緊張により、咳がたくさん出る。
Bかぜをひいたあと、咳が長引き、消失するのに10日以上要する。
等です。
○診断
 問診のみでほぼ推測可能です。ピークフローの測定は、せき型喘息ではあまり意味がありません。
○治療
(1)感染症の治療
 気道アレルギーは、感染症を引き金として、悪化しますので、感染症の治療が大切です。
(2)温熱療法
 アレルギー性鼻炎では、42度の水蒸気を鼻から吸入する温熱療法が有効です。粘膜を加温すると炎症が治まり、腫れがとれるようです。また、痰が加湿加温され、喀出されやすくなります。下気道アレルギーでも、当院では、水蒸気の吸入療法を行っていますが、かなりの効果があるようです。具体的には、インスピロンネブライザーを使用して、給気は圧縮空気のみで10L/分程度として、濃度設定を35%とすると、加湿加温された水蒸気が20〜30L/分供給されます。これを点滴と併用して1時間程度吸入していただいています。吸入後は痰が切れて、症状が軽快して帰られます。
(3)薬物療法
 下気道アレルギーは気道過敏がベースとして起こるわけですから、気道過敏性を減弱する治療をベースとすべきです。それを担うのが抗アレルギー剤やステロイド剤です。それらの薬剤で効果不十分な場合には、各種薬剤を併用していく必要があります。
@抗アレルギー薬

 アレルギー反応を抑制する薬剤として、効果は不十分ではありますが、副作用も少ないので、ベースとして使用すべき薬剤と考えます。抗アレルギー剤には、いくつかの系統がありますが、経験上最も有効なのは、メディエーター遊離抑制剤であるペミラストン(アレギザール)ではないかと思います。セカンドチョイスとしては、キプレス(シングレア)、オノンを使用します。その他の抗アレルギー剤も効果がある場合があります。
 また、抗ヒスタミン薬であるゼスラン(ニポラジン)は安価で、他剤と併用して、効果が期待できる薬剤です。
A吸入ステロイド
 私は、フルタイドディスクヘラーを主に使用しています。通常、200μgを1日2回吸入でスタートしますが、重症と思われる場合には1日4回吸入からスタートします。
 パルミコートは妊娠初期に投与しても先天性奇形の発現のみならず妊娠自体に影響しないことが報告され、米国FDAは唯一、妊婦への安全性をカテゴリーBと認定しています。
 小児の身長の伸びに対しては、フルタイドでは1年間投与で、バルミコートも4年間投与で影響しないと報告されており、パルミコートは成人に達したときの身長に影響を与えなかったことが報告されています。
 吸入ステロイドは有効な治療法ではありますが、患者さんにはややなじみが悪く煩雑で、コンプライアンスが悪いので、内服薬で効果が不十分な場合に使わざるをえません。
Bテオドール
 気管支拡張作用とともに、抗炎症作用があるという報告もあり、ベースとして使っていくべき薬剤と考えます。用量については、一般的にはピーク値で5〜15μg/mL(=5〜15mg/kg、200〜600mg/40kg)の血中濃度を目標とする、ということになっています。過去には、血中濃度をモニタリングして、中毒量寸前まで、血中濃度を高めて使用されてきましたが、常用量でも十分な効果が望めるので、10mg/kg/日、分2で使用しています。成人では、200mg錠を朝夕食後内服で処方していますが、とくに重篤な副作用で困ったことはありません。
 副作用としては、初回投与時の悪心や嘔吐などの胃腸症状があります。血中濃度の上昇による中毒症状としてはまず、悪心、嘔吐などの消化器症状があり、さらに血中濃度が上昇すると頻脈、不整脈などが起こることがあると言われています。
 肝臓で代謝されますが、併用薬により代謝速度が変わってくることがありますので、併用薬に注意する必要があります。
 乳幼児、発熱している小児、てんかん及び痙攣の既往のある小児等に投与する場合には、通常量(16mg/kg/日、分2)より低用量から投与開始することになっていますが、10mg/kg/日、分2ならば問題ないのではないかと考えます。
Cβ2刺激薬
 気管支のβ2受容体を刺激して、気管支拡張作用があるとされています。
 副作用として、振戦(手指のふるえ)、動悸、頻脈などあり、重大な副作用として、血清低カリウム値の報告があるといわれています。
 虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)、甲状腺機能亢進症、糖尿病がある場合には注意して使用する必要があります。
 内服薬として、メプチン、スピロベント、ホクナリンなどがありますが、副作用の頻度が高くなります。
 貼布薬として、ホクナリンテープなどがありますが、作用が弱いような印象があります。
 吸入薬としては、セレベントを使用していますが、フルタイドに追加して使用することが多いので、フルタイドとセレベントの合剤であるアドエアを使用します。また、咳発作時には、短時間作用性β2刺激薬であるサルタノールを使用しています。
Dステロイド
 なんと言っても、抗炎症作用が強いのはステロイドであり、種々の治療薬を併用しても十分な効果が得られない場合は、ステロイドの併用もやむを得ないと思います。通常は内服でプレドニン(5mg錠)2錠、分2からスタートします。やむを得ず、長期間ステロイドを投与していた場合に急に減量すると、副腎不全になることがあるので、漸減していく必要があるといわれています。
 アレルギー性鼻炎では、セレスタミンがほとんどの場合、有効ですが、下気道アレルギーでは必ずしも著効を示さないのは何故でしようか。
○使用薬剤の選択
 アレルギー発作は、感染を契機に悪化することが多いので、初期に有効な抗生剤の投与が必要です。
 アレルギーの治療としては、まず、ベースとして抗アレルギー剤を使用します。まず、ペミラストン(アレギザール)を用いて、1週間程度で効果がみられない場合は、キプレス(シングレア)、またはオノンを使用します。
 ゼスラン(ニポラジン)も併用します。
 咳が強いときには、テオドールを常用量で用います。
 吸入ステロイドも、ベースとして使用すべき薬剤ではありますが、吸入というやや煩雑な手技が必要とされるため、軽症の患者さんの場合、希望されないことがありますが、やや重症の患者さんには、使用を勧めています。気道過敏のみの場合は、フルタイドを使用しますし、咳発作を伴う場合にはアドエアを使用しています。最初は大容量を用い、症状が安定してきたら、漸減するようにしています。
 β2刺激薬の内服は、あまり効いたという経験がないないので、ほとんど使用しません。ホクナリンテープもあまり効果を期待できませんが、貼布することで心理的な効果は期待できると思います。サルタノールは咳発作の際に使用すると効果があるようです。
 以上を全部駆使しても、コントロールできない場合には、内服ステロイドを用いるしかないでしょう。
 (アレルギー疾患 診断・治療ガイドライン 2007 を参考にしました。)  (平成20年6月27日 記)

◎妊婦の管理
 妊娠後期、特に37〜40週目には喘息症状、気道過敏性の改善が認められるが、出産後には概ね妊娠前の状態に戻る、と言われています。
(1)ステロイド薬
 重症発作のコントロールには、妊娠中であっても全身性ステロイド薬の投与を躊躇するべきではない。
 吸入ステロイド薬は、胎児に対しても母体に対しても安全性が高い。
(2)β2刺激薬
 吸入、経口ともに明らかな催奇形性の報告はなく、妊娠中も安全とされている。
(3)テオフィリン薬
 経口、静注ともに催奇形性の報告はなく、妊娠中の喘息コントロールに有用とされる。
(4)抗アレルギー薬
 DSCG、ロイコトリエン受容体拮抗薬、抗ヒスタミン薬や比較的世代の古い抗アレルギー薬も催奇形性はほとんどなく安全性がほぼ確立しているが、妊娠中の投与は有益性が上回る場合に限定する。  (平成20年7月6日 記)

◎アスピリン喘息について
 成人喘息の約10%の患者さんは、酸性NSAIDs(鎮痛解熱剤)の内服や注射、坐薬の使用直後から1時間程度までの間に喘息発作を起こすことがあります。多くは30歳代から40歳代に発症し、好酸球性副鼻腔炎、嗅覚低下、鼻茸、好酸球性中耳炎が合併することがあります。
 急性増悪時の治療の際、コハク酸エステル型のステロイド薬(ソルコーテフ、サクシゾン、水溶性プレドニン、ソル・メドロール)を急速静注射すると喘息を増悪あるいは誘発させやすいので注意を要します。アスピリン喘息が否定できないときには、リン酸エステル型の製剤(デカドロン、リンデロンなど)を点滴で使用するとよいといわれています。
 内服薬は、非エステル構造なので、アスピリン喘息にも安全に使用できます。  (平成20年6月27日 記)

★喘息発作では、アミノフィリン(ネオフィリン)静注は不要?
 「中等度以上の発作では、全身性ステロイド薬(メチルプレドニゾロンナトリウム(ソル・メドロール)で150〜180mg)で炎症の増悪を抑えることが重要。気管支を拡張するだけでは、一時的に自覚症状が改善してもすぐ再発してしまう。」 (Nikkei Medical 2002年1月号)

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○咽喉頭異常感症
@概念:咽喉頭異常感症とは、「患者が咽喉頭に異常感を訴えるが、通常の耳鼻咽喉科的視診によっては訴えに見合うような器質的病変を局所に認めないもの」と定義されているが、以下の疾患を除外することが必要である。
1)感染症:発熱、疼痛、咳、痰などの症状が伴うことが多く、比較的容易に除外される。
2)アレルギー:「咽喉がいがらっぽい、痒い」、「咳き込む」、「痰がからんだ感じがする」「腫れた感じがする」と訴えることが多い。
3)悪性腫瘍:隆起性の病変は視診により、発見が容易である。通常の粘膜にできる癌は、初期に潰瘍を形成してくることが多いので、「しみる」「飲み込む時にチクッと痛い」等の症状を訴えることが多い。こういった症状をしつこく訴える場合は癌を疑うが、粘膜病変が軽微の場合には発見が困難である。擦過細胞診で診断できることがあるのでやってみるのもよい。食道入口部付近の病変はファイバー検査でも、食道透視でも診断が困難であるが、経過をみて繰り返し検査をしていくことが必要である。
4)その他の隆起性病変:粘膜下腫瘍、嚢胞などがあるが、これは視診により容易に除外される。
5)胃食道逆流症:食道炎の症状(胸やけ、げっぷ)が前景にあるため、鑑別は容易である。
6)甲状腺疾患:慢性甲状腺炎や甲状腺癌が腫大して気管及び食道を圧迫して、異常感を起こすことがある。咽喉頭異常感を訴える患者さんの診察の際は、必ず頚部の触診を行って、甲状腺の腫大がないか、頚椎の骨棘を触れないかを確かめる必要がある。
 以上の疾患が除外されて、かつ「咽喉に何かある感じ」「アメ玉がつかえた感じ」「ものを飲み込む時につかえる感じ」等を訴える場合を咽喉頭異常感症とする。
7)Plummer-Vinson症候群鉄欠乏性貧血、舌炎、嚥下障害を特徴とし、しばしば透視検査で頚部食道前壁のくびれ(web)を認める疾患で、中年以降の女性に多い。
8)食道憩室:食道入口部に認められるZenker憩室が代表的である。
A原因:オレ流の考えでは、頚椎異常が咽喉頭異常感症の原因になっていることが多いと思う。頚椎の生理的彎曲の異常があり頚椎がつっぱっていたり、彎曲が反転していることがある。老人では、骨粗鬆症がベースにあって、頚椎がつぶれて骨棘が形成されたり、前縦靭帯が石灰化して、それが食道を圧迫していることがある。強直性脊椎骨増殖症では、椎体前縁の異常骨化により椎体の強直や変形をきたす疾患で、Forestier病としてよく知られている。
 精神的要因が原因とする意見もある。確かに軽微な異常感を気にするか否かにおいて、精神的要因が関与することはあるが、その場合においても原因となる軽微な異常は存在するはずである。
B診断:まず、異常感を感じる部位がどこであるか、下咽頭か喉頭か頚部食道であるか部位を詳しく問診する。その部位を中心に、肉眼で直視し、さらにファイバー検査を行い、器質的な病変がないことを確認する。食道に異常感のある場合で、腫瘍が疑われる症状がある場合には、食道ファイバー検査、食道透視を考える。また、頚部の触診で甲状腺腫瘍を触れることがある。一番、有効なのは嚥下造影検査であろうが、診療所ではできないことが多い。次に、参考になるのは喉頭レントゲン撮影である。所見としては、正面像で頚椎の側彎がないか、側面像で生理的彎曲が保たれているか、骨棘形成がないか、前縦靭帯の骨化がないかに注意する。気管の後ろに食道があって、その後ろが頚椎である。気管の後壁の突出がある場合、その後ろの頚椎の状態をよくみると、骨棘などによる圧迫がみられることがある。
C治療:骨棘の形成などは急に生じたものではなく、徐々に生じたものであろうが、ある時、なんとなく気になって、それを気にし始めるとますます気になっていくものである。これを気にするかしないかについては精神的な要素も関与していると思う。治療は、原因となっている頚椎異常を説明して、手術することは容易ではないので、つかえ感があってもなるべく気にしないよう説明してあげるとほとんどの場合、気にならなくよるようである。精神的な要素もあることから、安定剤などを処方する医師もいるが、私は処方したことはない。強いて処方するとすれば、紫朴湯であるが、再度処方を求めて来院される方はほとんどいない。
 まれに癌の初期症状のことがあるので、もし疼痛などの症状が出てきた場合には精査が必要であることを説明しておくことが大切である。
D最後に:患者さんが異常感を訴えて受診した場合、どこかに必ず、異常感の原因となっているものがあるわけで、原因がわからないというのは医師に見つけ出す能力がないということである。原因がわからない場合、精神的なものと断定してしまうのは医師の不見識であると思うが、何割かの患者さんでは原因と思われる所見を説明できないことがある。
   平成23年11月17日 改訂

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○味覚障害
(この項は、平成18年3月19日の兵庫医科大学教授 阪上雅史先生の講演をまとめたものです)
@年齢分布: 味覚障害は年齢とともに増加していく。
A原因: 特発性 36.3%、薬剤性 19.0%、感冒後 11.3%、心因性 8.2%、全身性 6.6%、鉄欠乏性 4.8% などであった。
B血中亜鉛低下の割合: 味覚障害の原因として亜鉛低下が考えられているが、原因別の亜鉛低下の割合はどうか
特発性: 63%、薬剤性: 71%、感冒後: 71%、心因性: 55%、全身性: 86%、鉄欠乏性: 68%、であった。
つまり、味覚障害の患者さんの3人に1人は血清亜鉛低下がないということである。
C初診時電気味覚検査結果: 正常: 19.8%、軽度 15.5%、中等度 20.9%、高度 13.9%、脱失 29.9% であった。
つまり、味覚障害を訴えていても、電気味覚検査で正常である場合が少なからずあるということである。
D薬剤性味覚障害の原因となる薬剤:
・薬剤添付文書に「味覚障害」の副作用の記載のある薬剤は200種弱ある。
・有名なものとして、抗リウマチ薬: D-ペニシラミン、降圧利尿剤: フロセミド がある。
・亜鉛とのキレート作用を持つ、SH基、カルボキシル基、アミノ基をもち、5員環や6員環キレートを作る構造を持つ薬剤が原因となる。
E検査:
・問診: 期間、原因、内服していた薬剤
・味覚検査: 電気味覚検査、濾紙デイスク法、全口腔法
・唾液量測定: 安静時唾液量、ガムテスト
・採血: 末血、微量元素(Fe、Cu、Zn)
・舌乳頭の観察: マクロスコープ、コンタクトエンドスコープ、唾液量測定
・心理学的テスト: SDS
F治療:
A. 硫酸亜鉛内服療法・・・亜鉛欠乏症例に限定せず投与(プロマックであれば1g/day)
B. 鉄剤内服療法・・・・・・鉄欠乏性味覚障害
C. 酢酸摂取療法・・・・・・重度味覚障害
G自覚症状の改善率: 特発性、感冒後、全身性では75%前後で、鉄欠乏性では全例回復傾向を示した。薬剤性、心因性では62.4%、33.3%と低い傾向にあった。
H改善までの平均期間: 特発性: 22.2W、薬剤性: 48W、感冒後: 22W、心因性: 22.3W、全身性:20W、鉄欠乏性: 10.2W であった。
I受診までの期間と改善率: 受診までの期間が6ヵ月未満では23週、6ヵ月以上では34週であった。
J難治性味覚障害におけるモズク酢摂取治療による味覚改善度:
モズク酢(味付けもずく 140g) 1日3パックを毎食事に6週間摂取した結果は、自覚的には 56%、電気味覚検査では 56%、濾紙ディスク法では 50% の改善がみられた。
K鼓索神経切断後の味覚障害:
・片側鼓索神経切断 11例のうち、2年後の時点で完全回復 3例、不完全回復 2例、非改善 6例、であった。若年者ほど、回復率が高い傾向がみられた。
・両側鼓索神経切断 3例のうち、改善したのは、端々吻合した 1例のみであった。
L私はこうしている:
・味覚障害を訴えて受診される患者さんは、年に数名程度しかいません。
・電気味覚計も濾紙ディスク法も、患者さんが少ないので用意していませんので、検査はしませんがあまり不便を感じません。
・血中亜鉛検査も過去にたくさん行いましたが、ほとんどの場合、正常範囲内で、治療法も変わりませんので、最近は必須の検査ではなくなっています。
・治療は、プロマックの処方が主です。舌に異常がある場合は、デキサルチン軟膏またはデスパクリームなどの塗布も併用します
・ほとんどの患者さんは、1〜2回受診して、来院されなくなりますが、軽快しているのでしょうか。 (2006.4.18記)

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○口腔乾燥症
(この項は、平成18年3月19日の兵庫医科大学教授 阪上雅史先生の講演をまとめたものです)
・逆流性食道炎患者さんは、唾液分泌量が低下している。
・60歳以上の高齢者では約60%に口腔内乾燥感を自覚しており、約20%が常時口渇を自覚している。
@唾液量測定法 -重量法- の実際:
・安静時唾液量(3ml/10min 以上を正常とする)
・ガムテスト[LOTTE FREE ZONEを使用] (10ml/10min 以上を正常とする)
A唾液分泌量を低下させる疾患:
・生理的: 緊張・不安・怒り(交感神経緊張)、脱水状態、高齢化
・病的: 自律神経失調、唾液腺炎、シェーグレン症候群、糖尿病、尿崩症、甲状腺機能亢進症、唾石
B唾液分泌量を抑制する薬剤:
1.向神経薬: アミトリブチンなど
2.降圧利尿剤: フロセミド、トリクロルメチアドなど
3.抗コリン薬: アトロピン、スコポラミンなど
4.抗パーキンソン病薬: トリヘキシフェニジル、ビペリテンなど
5.抗ヒスタミン薬: クロルフェニラミン、アゼスランなど
C治療:
T.対症療法
 1. 人工唾液  (サリベート)
 2. 唾液分泌促進 (ガムなど)
 3. 口腔内消炎作用 (トローチ、含嗽剤)
 4. 口腔内保湿 (グリセリンなど)
U. 内服療法
 1.塩酸セベメリン (エボザックなど)
 2.H2受容体拮抗剤  (アシノン)
 3.アネトールトリチオン (フェルビテン)
 4. 漢方薬  (麦門冬湯など)
 5. 酢酸摂取療法 (モズク酢など)
Dアシノン内服1ヶ月後の自覚症状改善率: 改善: 52.6%、軽度改善: 13.2%、不変: 34.2% であった。
E塩酸セベメリン(リボザック)の使用経験:
安静時唾液量の変化は、投与前 1.44±1.38ml/min、投与後 1.96±1.83ml/min であり、有効度 51% であった。
ガムテストの変化は、投与前 8.37±4.24ml/min、投与後 9.03±4.15ml/min であり、有効度 63%であった。
味覚機能の改善は、自覚症状で 38%、電気味覚検査で 26%、濾紙ディスク法で 28%であった。
F私はこうしている:
・口腔乾燥症の患者さんは、時々います。もちろん高齢者が多いのですが、中年の女性もいます。
・検査は特にしません。自覚症状と口腔内の所見を参考にしています。
・治療には、適応症をもっているフェルビテンをまず使いますが、副作用もない代わりに効果もほとんどありません。
・対症的にサリベートもよく処方しますが、繰り返し処方を希望される患者さんは多くありません。所詮一時的な効果しかないからでしょうか。
・サリグレン(=エボザック)は、唾液量を1.5倍に増加するというデータが出ており、確かに効果があるようです。ただし
禁忌: @心筋梗塞、狭心症 A気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患 B消化管および膀胱頸部に閉塞のある患者 Cてんかん Dパーキンソン E虹彩炎
慎重投与: 高度の唾液腺腫脹、間質性肺炎、膵炎、過敏性大腸炎、消化性潰瘍、胆嚢障害、胆石、尿路結石、尿管結石、前立腺肥大、甲状腺機能亢進症、全身性進行性硬化症、肝障害、腎障害、高齢者
等が掲げられており、併用注意の薬剤もたくさんありますが、注意して使えば、これまでに副作用で困った患者さんもなく、それなりに効果もあるようで、リピーターもたくさんいます。高齢者が慎重投与になっているので、70歳以上の患者さんにはあまり処方しませんが、高齢者に患者さんが多いので困ります。
・アシノンも阪上教授のデータによれば、効果がありそうなので、使ってみたいと考えています。  (2006.4.18記)

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○顎関節症
@診断
 耳鼻咽喉科外来へは、耳痛を訴えてくることが多い。耳所見で鼓膜および外耳道に異常を認めない場合、触診で顎関節周囲に圧痛があることで顎関節症を疑う。開閉口をさせると、関節の動きが悪かったり、左右差があることがある。また、関節には異常を認めないが咀嚼筋に圧痛を認めることがある。
A原因
 不適切な咀嚼運動が誘因となっていることが多い。歯牙の欠損、齲歯などのために、偏った歯で咀嚼していることがある。また、不整咬合のため、正しい咬み合わせができないため、顎関節に不自然な動きが起こっていることがある。不適切な咬み方が長期間続くと、関節に変形が起こり、ある日突然疼痛が出現するようになり、時に耳への放散痛が起こる。関節に異常が起こらなくても、咀嚼筋に負荷がかかり、筋肉痛というかたちで疼痛が起こることもある。
B治療
 原因を除くことが大切である。齲歯がある場合には、治療により両側の歯で均等に咬めるように治療を指示する。歯の欠損がある場合には、義歯等で補う。咬合不整がある場合には矯正することにより、正しく咬める状態にする。これらのことを注意し、正しい咬み方を意識して行うよう指導することにより、ほとんどの場合、軽快するものであり、顎関節の外科的治療を要することは滅多にない。
 薬物療法としては、疼痛が強い場合には、消炎鎮痛剤(ロキソニンなど)を投与するが、必要とすることは少ない。
   平成23年12月14日 記

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○インフルエンザ

☆インフルエンザにクラリスロマイシンが有効
・大正富山医薬品株式会社のデータによると
@クラリスロマイシンの添加により、培養細胞におけるインフルエンザウイルスの増殖を抑制した。
Aクラリスロマイシン投与により活発な線毛運動が維持され、ウイルスの増殖も抑制されていることがわかった。
BクラリスロマイシンはIL-12の産生促進を介して、粘膜免疫に重要なIgAなどの抗体産生を増強していることが明らかになった。
ということです。
東北大学の渡辺彰助教授によると「ニューキノロン投与の場合と比較し、マクロライド投与のほうが発熱回数、発熱日数共に有意に抑えられました。また、インフルエンザ様疾患患児にセフェム系抗生物質を投与した場合と比べ、マクロライド系抗生物質を投与した場合の方が発熱期間が有意に短縮し、肺炎合併率も減少していることがわかります。」ということです。渡辺彰:日胸62(9):819-827 二宮恵子:JJ Antibio 56(A):84-86,2003        (2004.12.08記)

☆インフルエンザワクチンの有効性については「よくある質問」のページを参照してください。

☆インフルエンザ予防接種は高齢者の市中肺炎を減らさず(日経メディカル 2008年9月号より転記)
 高齢者を対象としたこれまでの観察研究では、インフルエンザワクチン接種者の方が肺炎による入院リスクが低いことが示されている。しかし、接種希望者とそうでない者の健康状態の差が調整されていないことや、外来で治療された患者が含まれていないことなどが、問題点として指摘されている。
 今回著者らは、米国のある会員制健康医療団体(HMO)の会員のうち、、正常な免疫機能を持つ65〜94歳の高齢者を対象に、コホート内症例対象研究を行った。
 症例は、2000年、01年、02年のインフルエンザ流行前(ワクチン接種開始から流行開始まで)と流行期に、市中肺炎の罹患が確認された1173人。症例1人につき対照2人の割合で、対照の2346人を選出し、インフルエンザワクチンの接種歴を調べた。さらに、喫煙歴、下気道感染への抗菌薬処方、肺疾患・心疾患の合併とその重症度など、関連する交絡因子で調整した。
 この結果、高齢者へのインフルエンザ予防接種は、インフルエンザ流行期に市中肺炎リスクの有意な低下をもたらさないことが明らかになった(オッズ比0.92,0.77〜1.10)。シーズン別に見ても、00〜01年のオッズ比は0.94、01〜02年は1.02、02〜03年は0.79で、いずれも有意な低下は認められなかった。インフルエンザ流行期のピークに発症した210人や、入院した患者421人に限定した分析でも、肺炎リスクに有意差は認められなかった。(Jackson ML,et al. Lanset 2008;372:398-405)

 私の考え:インフルエンザワクチンが本当に有効であるのなら、他のワクチンのように、接種を受けた人のほとんどは感染しないはずであるが、実際はかなりの頻度で感染している。現在のインフルエンザワクチンが有効とは考えにくい。

☆インフルエンザの発生と流行は絶対湿度と強い関連がある
 オレゴン州立大学(コーバリス)海洋・大気科学のJeffery Shaman助教授らによると、絶対湿度とインフルエンザウイルスの生存・伝播との間には有意な相関関係があり、インフルエンザが流行する1月や2月のように絶対湿度が低い時期には、ウイルスの生存期間が延長して感染率が増加するとしている。(Proceedings of the National Academy of Sciences. USA(PNAS, 2009; 106: 3243-3248)
 これが事実であれば、梅雨の時期にはインフルエンザは流行することはない。(2009.6.2記)

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○流行性耳下腺炎
概説:
・パラミクソウイルス科のムンプスウイルスの日待つ感染により起こる。感染力は強く、密接な接触のある環境では感染率は約90%との報告もあるが、その約30%は不顕性感染といわれている。
2度罹ることもある:終生免疫と思われていたが少数では再感染も見られる。 
・潜伏期間は通常16〜18日で、発症前2日から発症後5日まで、人にうつす可能性がある。
・好発年齢は4〜10歳で、5歳にピークがあり、15歳以下の小児が85%以上を占める。
合併症:
無菌性髄膜炎:3〜10%に症状がみられ、まれに脳炎もある。
精巣炎:思春期以降の男子では25%程度に見られるが不妊となることは少ない。女児では卵巣炎が5%ある。
感音性難聴:最近の調査では1000例に1例みられたとの報告があり、通常は片側性であるが、まれに両側性のこともあり、難治である。
・その他:膵炎、乳腺炎、関節炎、心筋炎などもまれに見られる。
症状:
・感冒様症状の後に急激に疼痛を伴った耳下腺の腫脹がみられる。
・約60%は一側のびまん性、弾性軟の腫脹から始まり、1〜2日後に反対側が腫れてくる。
・発熱は中等度で40℃以上になることはまれである。
・ときに顎下腺の腫脹がみられることがある。
検査:
典型例では検査の必要はない。
・初感染:急性期の血清のEIA法でIgM抗体がすでに2.5抗体指数以上の要請であることが多い。IgG抗体は陰性あるいは弱陽性となる。
・再感染:IgM抗体陰性あるいは弱陽性で、IgG抗体が25.8EIA値以上の高値という基準がある。
治療:
・特効薬がないため、対症療法で経過観察し、1週間前後で症状は軽快する。
・学校保健法では、耳下腺腫脹が消失するまで登校園停止とされている。
予防:
・生ワクチン:国内には3社の製剤があるが、全体で約2000例に1例の髄膜炎合併の報告がある。
(参考文献 日野利治:Medical ASAHI 2010 May、友田幸一、堀口章子:新図説耳鼻咽喉科・頭頸部外科講座)
 2010.6.14 記

○百日咳
 最近、成人の百日咳感染が報告されている。咳症状が長引く場合、喘息なのか、マイコプラズマ肺炎なのか、百日咳なのか、迷うことが多い。
症状と経過百日咳はグラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染によって起こる。長期間続く激しい咳が特徴で、百日咳菌毒素が、気道上皮細胞、主として腺毛細胞を刺激するためとされている。感染して7日間ほどの潜伏期のあと、カタル期(1〜2週間)、痙咳期(4〜8週間)、回復期(1〜2週間)という経過をとる。カタル期は無熱の感冒様症状(鼻閉、鼻汁など)を呈し、通常の感冒との区別が難しい。しかし痙咳期になると、特徴的な連続性の咳嗽(スタカート)や吸気時の笛声音(whooping レプリーゼ)が出現する。この咳発作は昼間より夜間に多く、百日咳様顔貌(舌の突出、真っ赤な顔、浮腫状の眼瞼)を呈することがある。成人の百日咳感染症による咳嗽は、典型的特長を欠いており、診断が非常に困難である。
ワクチンの効果:接種後3〜5年で抗体価の低下が始まり、10年ほどでその予防効果がなくなるとされている。
慢性咳嗽患者における百日咳感染の頻度:4週間以上咳嗽が続き、胸部X線写真で異常所見がなく、喘鳴もない成人症例144例の百日咳毒素に対する抗体価PT-IgGを測定し、29例(20.1%)が百日咳に感染していた。
診断方法:菌培養陽性率は9%と低く、PCR法においてもその陽性率は15%であるといわれている。血清学的に、ペア血清で抗体価の有意な上昇か、シングル血清では百日咳毒素に対する抗体価(PT抗体価)が100〜125EU/mL以上であれば感染と診断できると報告されている。
治療と予後:エリスロマイシン、クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬が用いられる。これらは特にカタル期では有効であり、投与5〜7日で菌の排出は消失し、感染力が低下するといわれている。また、痙咳期でも効果があるといわれている。(野上裕子;感染と抗菌薬 Vol.10 No.4 2007 より要約)
 
実際、日常臨床では、百日咳の診断は困難なようです。咳が長引く患者さんには、とりあえず、クラリスロマイシンを処方しておけばよいのではないかと考えます。
   (2008.10.1 記)

・尾内一信、岡田賢司: 小児感染症の治療と予防、課題と展望、INFECTION FRONT Vol.26 2012 にわかりやすいフローチャートが掲載されていました。

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○組織球性壊死性リンパ節炎(亜急性壊死性リンパ節炎)
・若い女性に多い。4歳から53歳までの報告があるが、20歳代にピークがあり、30歳までが85%。
@症状
 初め前駆症状として、扁桃腫大をともなう上気道症状が発現し、それと相前後して主に側頚部の皮下リンパ節腫大と白血球減少をきたす。
 38℃台の不規則な発熱をみることがあり、これが約1週間続く。1ヵ月近く解熱しない例もある。
 多くは片側の側頚部の皮下リンパ節が小指頭大に腫大し、その大半に自発痛と触痛がある。
A検査
 大多数の例で末梢血液の白血球数が4000/o3以下に減少する。
 症例の約30%に単球が増多し、異型リンパ球が認められる
 CRP値、GOT、GPT、LDH値が上昇する。
 腫大リンパ節に壊死巣が存在し、組織球と大型のリンバ球が増殖しているが、好中球などの浸潤は見られない。
B治療
 原則として特異的な治療法はなく、対症療法が中心になる。
 ステロイド剤は一定の効果がある。プレドニン15〜30mg/dayから、5日ごとに漸減する。
C経過と予後
 普通、1〜2ヵ月で治癒するが4%に再発する。
 膠原病・自己免疫性疾患の併発、血球貪食症候群への移行または併発、家族性発現が意外と多い。
   (柳瀬 敏幸 (1998. 12. 21.)http://www.hospital.japanpost.jp/fukuoka/health/pdf/ProfileNo.27.pdf より要約)
   (2010.11.11記)

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○頸部腫瘤
・SkandalakisのRule of Eighty「甲状腺以外の頸部腫瘤は80%が腫瘍性であり、その80%が悪性、悪性の80%が転移性で、その80%が頭頸部癌の転移である。」
・Skandalakisの7法則「炎症7日、腫瘍7ヵ月、先天性奇形7年」

 (松浦一登:日耳鼻 115,P642-645 より)

表1 先天性・発育異常を原因とする頸部腫瘤
原因 好発部位 治療法
甲状舌管嚢胞
(正中頸嚢胞)
甲状舌管の遺残 舌骨下の正中部 手術
類皮嚢胞
(皮様嚢胞)
皮膚付属器を含む上皮 顎舌骨筋の上部
舌骨とは無関係
手術
鰓性嚢胞 胎生期の鰓溝が遺残
男女比は2:1
まれに癌化(40〜70歳の男性に好発)
・第1鰓溝は外耳道を形成
 ⇒下顎角下縁〜外耳道に至る瘻孔
・第2鰓溝は口蓋扁桃窩を形成
 ⇒胸鎖乳突筋前縁の下1/3
  〜口蓋扁桃窩に至る瘻孔
・第2鰓溝由来>第1鰓溝由来
手術
リンパ管腫 生下時に30%、生後2年未満に80〜90%が出現する 側頸部、顎下部、耳下腺部 OK-432硬化療法

表2 炎症を原因とする頸部腫瘤:リンパ節炎
原因(起炎菌) 臨床症状 検査 治療法
急性化膿性リンパ節炎 黄色ブドウ球菌
A群溶連菌
一側の1〜複数個のリンパ節腫大
自発痛、圧痛
血算、CRP、ASO、
超音波検査、CT等
抗生剤
膿瘍形成時は
切開排膿
結核性リンパ節炎 Mycobacterium
Tuberculosis
病初期は無痛生・孤立性で硬い腫瘤
進行すると軟化。周囲組織や皮膚との
癒着。リンパ節同士の融合
ツベリクリン反応検査
胸部X-P。喀痰検査。
穿刺吸引細胞診
結核菌検査(塗末、培養、PCR)
抗結核剤投与
伝染性単核症 EBウイルス 白血球↑(10%以上の異型リンパ球を伴う)
VCA-IgM交代値↑
抗EA抗体値↑
GOT・GPT・LDHなど↑
対症療法
(抗菌薬は無効)
ペニシリン系禁
亜急性壊死性リンパ節炎 原因不明 有痛性リンパ節腫脹、発熱・皮疹
まれに無菌性髄膜炎や劇症肝炎、心筋炎など
典型例は20〜30歳代の若い女性、
10〜30歳台で90%、男女比は1:3
GOT・GPT・LDH↑
白血球↓
確定診断は生検
対症療法
(NSAIDs)
発熱持続時は
ステロイド剤
木村病
(軟部好酸球肉芽腫)
良性皮膚腫瘍 皮膚に孤立性の腫瘤ができて徐々に増大
耳下腺およびその周囲での発生が多い。
20歳未満の男性に多い。
好酸球↑。血清IgE高値
MRI、病理検査
切除手術

表3 腫瘍を原因とする頸部腫瘤
分類 臨床的特徴 検査 治療法
甲状腺腫瘍 良性
悪性
乳頭癌:80.3%、濾胞癌:11.9%、
髄様癌:11.9%、未分化癌:1.8%、
悪性リンパ腫:1.8%
良悪の鑑別
 ⇒超音波検査
  穿刺吸引細胞診
周囲組織への進展診断
 ⇒CT
手術
分化癌のlow risk groupで10生率96%、
high risk groupで68%
髄様癌の3生率83%、10生率75%
悪性リンパ節 ボジキンリンパ節 B症状(発熱、体重減少、盗汗)を伴うことがある。 リンパ節生検 ABVD療法
非ホジキンリンパ腫 CHOP療法、予後不良が予測されるとき⇒造血幹細胞移植
転移性腫瘍 転移部位から原発巣を推測
耳下部:耳下腺癌、顔面の皮膚癌、眼瞼癌
顎下部・オトガイ下部:口腔癌
側頸部:声門上癌、中咽頭癌、下咽頭癌、甲状腺癌
後頭部:上咽頭癌、耳下腺癌
鎖骨上窩:食道癌、肺癌
初診時における頭頸部癌頸部リンパ節転移率
声門癌:2.3%、声門上癌:36.5%、
口腔癌:24%、上咽頭癌:75.3%、
中咽頭癌:61.8%、下咽頭癌:66.3%
超音波検査
CT
MRI
穿刺吸引細胞診
手術(頸部廓清術)
放射線治療
血管性腫瘍 頸部動脈小体腫瘍 多くが一側性の上頸部に拍動を伴う腫瘤として認められ、無痛であり緩慢な発育を示す。 超音波カラードプラ法・MRI・CT 手術
血管腫 1歳まで増大し、その後数年で自然退縮していく。 超音波カラードプラ法 経過観察
神経性腫瘍 神経鞘腫 好発年齢は40歳前後であり、頸部では迷走神経、舌下神経、頸部交感神経幹、腕神経などから発生することが多い。 超音波検査・造影CT・MRI 切除手術
耳下腺腫瘍
(唾液腺腫瘍の90%)
良性 85% 多形腺腫 65〜70% 緩徐な発育を示し、球形で表面にやや凹凸があり硬く触れる。
ワルチン腫瘍 15% 球状で比較的柔らかく、耳下腺下極に発生することが多い。多発性、両側性に発生することも少なくない。
悪性 15% 腺癌 24% 、粘表皮癌 23% 、腺様嚢胞癌 17%
顎下腺腫瘍
(唾液腺腫瘍の10%)
良性 50〜60% 多形腺腫がほとんど
悪性 40〜50% 腺様嚢胞癌 37% 、腺癌 20% 、粘表皮癌 16%

(松浦一登:日耳鼻115 P698-701 より)

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