中耳・外耳疾患のページ

○外耳炎
 
原因別に分類すると、主にみられるのは
1.細菌性外耳炎
 耳掻きのやりすぎなどで傷ついて感染を起こしたり、耳に水が入って湿った状態が長く続いて皮膚が荒れて起こると考えられます。
 治療の原則は局所の清掃と消炎です。1日1回入浴後、やや湿った状態の時、綿棒で清掃して、リンデロンVG軟膏塗布を3〜4日行うとほとんどの場合治癒します。細菌感染症状が強くて、耳漏が多い、発赤が強い場合は抗生剤の内服を併用します。 ブドウ球菌をターゲットとして、セフゾンなどを投与します。
 また、タリビット耳科用、ベストロン耳鼻科用の点耳で効果がある場合があります。
 また、リンデロン液の点耳で効果がある場合があります。
 注意することは、いじりすぎないことで、1日1回だけ耳を掃除するようにすることです。  
2.アトピー性外耳炎
 外耳の痒みが強いことが多い。細菌性外耳炎を伴っていることが多いようです。
 治療はリンデロンVG軟膏の1日1回塗布のみでよいことが多いが、掻痒感が強い場合には、抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤の内服を併用することもあります。

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.〇耳真菌症
 白色(Aspergillus terreus)、黒色(Aspergillus niger)の胞子塊が見える場合、診断は容易であるが、湿潤型を示すものは肉眼的診断が困難である。Candida属ではイースト状の白濁した耳漏のことが多い。角化物と真菌塊からできた膜様物が付着していることが多いので、真菌培養して確定します。
 治療は、まず、外耳道の清掃ですが、吸引管でていねいに吸引除去してから、イソジンで消毒し、アスタットクリーム等を塗布しますが、水虫と同じで難治のことがあります。軟膏製剤とクリーム製剤を使ってみましたが、クリーム製剤のほうがよいようです。
 いろいろな療法が考案されていますが、私はホウ酸を使用しています。綿棒にアスタットクリームをマッチの頭程度取り、それにホウ酸末を付着させて、混ぜながら外耳道に塗布しています。(この方法は、故信州大学形成外科広瀬毅教授から元信州大学耳鼻咽喉科山本香列助教授を経て伝授されたものです) この方法を行うようになってから、外耳道真菌症で苦労する症例がなくなりました。おそらく、ホウ酸の防カビ作用で、カビが生えることがないのでしょう。酸の中ではカビが生えることがないということで効果があると考えられますので、ブロー液でも効果があるでしょう。
〇局所抗真菌薬(2019年6月現在)
・イミダゾール系:エンペシド(クロトリマゾール 1975)、フロリード(ミコナゾール 1980)、アデスタン(硝酸イソコナゾール 1982)、マイコスポール(ビボソール 1985)、アスタット(ラノコナゾール 1994)、エクセルターム(硝酸スルコナゾール 1985)
・ベンジルアミン系:メンタックス(塩酸ブテオフィ 1992)
・アリアミン系:ラミシール(塩酸テルヒナフィン 1983)
    平成25年5月31日改訂

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○鼓膜炎

○分類
 1)急性鼓膜炎:急性中耳炎の一つとも考えられている。激しい耳痛を主訴とするが、水泡が完成すると痛みがなくなる。
  ・水泡性鼓膜炎 
 2)慢性鼓膜炎:耳痛は少なく、耳漏や耳掻痒感、耳閉感などを主訴とする。聴力検査では20dB以内程度の伝音難聴を生じる。耳漏の培養からは緑膿菌とブドウ球菌が検出されることが多い。
  ・肉芽腫性鼓膜炎
  ・びらん性鼓膜炎
○オレ流の治療
 1)水泡性鼓膜炎
   抗生剤の投与を基本とする。水泡は綿棒でつつくだけで容易に破れて、滲出液が流出する。
 2)慢性鼓膜炎
   小綿球に4%キシロカインをしみこませ、鼓膜に数分あてておく。鼓膜に肉芽がみられる場合は、肉芽を鉗除する。
   綿棒に80%トリクロ酸液をつけて、炎症のみられるところに塗布する。鼓膜を酸性の状態にすることにより、細菌感染は抑制される。
   タリビッド耳科用液を処方して、1日2回1週間点耳してもらう。
   以上の処置でほとんどの鼓膜炎は治癒できる。

    (参考:大島英敏 日高浩史:MB ENT.192::1-5,2016)  平成29年1月27日記

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○外耳道真珠腫
 外耳道真珠腫は、外耳道に限局的に堆積した角化物の炎症により限局性骨膜炎が生じ、病巣部に上皮が侵入して骨の露出・腐骨形成を呈する疾患である。
・病因:主に2つの説が考えられている。
 @耳掃除などによる骨部外耳道の損傷の結果として生じる、という説である。
 A何らかの原因で外耳道上皮のmigration能が低下し、停滞・堆積した上皮が皮下に浸潤する、という説である。
・治療:
 StageT〜Ua:軟膏の塗布などによる保存的治療
 StageUb〜V:外耳道形成術
 StageW:拡大した範囲の乳突蜂巣削開術や顎関節置換手術
 ブロー液は使用した全例で大きな副作用なく炎症の鎮静化、潰瘍の上皮化が得られており、保存的加療に有用である。
・血液透析患者の外耳道真珠腫罹患率は2.9%と非常に高い。
 (橋本研 他:慢性腎不全・血液透析患者に発症した外耳道真珠腫の検討.日耳鼻117:1179-1187,2014 より要約) 

○耳介軟骨膜炎
原因: 細菌感染によるものと思われるが、感染源がはっきりしないことが多い。虫刺されが原因と思われることがある。
症状:耳介全体が発赤・腫脹する。
治療:抗生剤の経口投与を行う。ブドウ球菌が原因菌のことが多いというので、キノロン系、ペニシリン系、セフェム系が有効と思われる。発赤した耳介は入浴時によく洗って、リンデロンVG軟膏を全体に薄く塗布する。
総評:耳介の発赤・腫脹が強いので重症感があるが、2〜3日で比較的容易に治癒するような気がします。当院では、年に1人くらいの頻度である。
   平成23年9月30日記

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○耳介血腫
原因:耳介前面の皮膚と軟骨の間にずれるような力が働き、穿通する動脈が切断され、出血が続いて血腫を形成する。格闘技、きついヘルメットを無理してかぶった、耳介が痒くて強くこすった、などの既往があることが多い。
症状:耳介前面が発赤なく腫脹して、波動を触れる。腫脹したまま放置しておくと、しだいに石灰化して固くなり、血行障害を起こして耳介が縮小してくる。
治療:
a)穿刺:5ml程度のシリンジに18G針を付けて穿刺する。血腫に達したら、静かに吸引する。新たな出血を起こさないよう、深く刺しすぎないよう注意する。早い段階で穿刺すれば、血性の液が吸引されるが、日数をおいた場合は、赤血球が沈降して、黄色の血清が吸引されることが多い。早い時期に穿刺すると一時的に元の形に復するが、出血が止まっていないことが多いので、数日で再び血腫を形成してくることが多い。
b)ケナコルトA法:皮膚科医からの伝授された方法である。ケナコルトAには止血作用があるらしい。まず、血腫にサーフロ針を刺して、血液を吸引する。次に、ケナコルトAを詰めたシリンジに換えて、ケナコルトAを注入する。そのままの状態で、血腫をモミモミして全体に行き渡らせる。次に溜まっている内容液を吸い取る。サーフロ針を抜き取り、なるべく長時間患者自身の指で圧迫しておくよう指導する。
c)マットレス縫合:穿刺しても再発を繰り返す場合には圧迫縫合するとよい。血腫の辺縁に耳介を貫通するように21Gの注射針を刺し、針の中に3号ナンロン糸を通す。血腫の対極の辺縁にもう1本注射針を貫通させ、針先からナイロン糸をUターンさせる。5mm間隔に数本の糸を通してから、耳介の前後に込めガーゼをあてて、圧迫して結紮する。時間が経つとゆるんでくるので、ややきつく締めてもよい。最後にイソジン消毒液をガーゼにしみこませておくと、乾燥して固くなるのでよい。圧迫期間は5〜7日程度でよい。尚、21G注射針を使用するのは、私のオリジナルである。
総評:ケナコルトA法を数例行ったが、効果がある場合とない場合があるようである。
   平成23年9月30日記

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○急性(化膿性)中耳炎
☆感染症の治療のポイントは @排膿 A抗生剤の使用 B再感染の予防 です。
@排膿
 浸潤期においては、まだ膿の貯留はないので、抗生剤の内服で速やかに治癒に向かう。
 化膿期においては、排膿を行うことが望ましい。鼓膜切開を行うのがよいとされているが、乳幼児では困難であり、また、中耳炎が治癒したあと、鼓膜の線維が切断されるため、瘢痕治癒する可能性があるので、私は行わない。鼓膜穿刺針にディスポの1mlシリンジを付けて鼓膜穿刺し、余裕があれば膿を吸引して細菌検査に提出する。余裕がなければ穿刺だけでもよく、あとでローゼン式吸引管でよく吸引する。穿刺孔は小さくても、排膿が続いている間は結構閉鎖しないものである。ただ、乳幼児では穿刺も困難であることが多いので、外耳道を5倍希釈イソジンで消毒して、リンデロンVG軟膏塗布のみにとどめることが多い。
 すでに穿孔している場合は、膿を細菌検査に提出し、ローゼン式吸引管でよく吸引した後、5倍希釈イソジンで消毒して、リンデロンVG軟膏塗布をしている。
A抗生剤の使用
 急性中耳炎の起炎菌は、サーベイランスによると、インフルエンザ菌(27.4%)、肺炎球菌(24.1%)、黄色ブドウ球菌(17.0%)、CNS(10.8%)であったということですが、インフルエンザ菌と肺炎球菌とモラクセラ・カタラーリスが三大起炎菌とされている。モラクセラ・カタラーリスは直接病原性はないが、ペニシリン系抗菌薬を分解して、効果を弱めるといわれている。ブドウ球菌は外耳道に常在する菌で、検体採取の際の汚染と考えられている。
・肺炎球菌では、PSSP:40.4%、PISP:39.7%、PRSP:19.9%とペニシリン耐性菌が59.6%に増えている。
・インフルエンザ菌では、BLPAR:6.1%、BLNAR:23.1%とABPC耐性菌が増加している。
・肺炎球菌に対しては、フロモックス、メイアクト、オラペネム、ニューキノロン剤が有効である。
・インフルエンザ菌に対しては、ニューキノロン剤≫メイアクト>フロモックス=オラペネムが有効である。
・点耳抗生剤として、タリビット耳科用、ベストロン耳鼻科用などがあるので、鼓膜穿孔がある場合に併用すると病巣に高濃度の抗生剤が入るので、有効である。但し、鼓膜穿孔がない状態では点耳液を使用しても、中耳ににはほとんど到達しないと思われるので無駄と考える。
B再感染の予防
 急性中耳炎は元に鼓膜穿孔がなかった場合は、ほぼ100%が鼻腔→耳管経由の感染であり、先発する副鼻腔炎の治療が大切である。鼻処置として、ボスミン、キシロカインの噴霧、鼻漏の吸引をしっかりと行い、鼻腔の換気をよくして耳管機能の回復を図る。 鼻閉がある場合には、血管収縮剤の点鼻液(トラマゾリンなど)を処方し、鼻閉時に点鼻し、鼻の通りをよくしてから静かに鼻をかむよう指導する。鼻すすりもよくないので、注意する。
付1)学会の小児急性中耳炎ガイドラインについては、こちらをご覧ください。
付2)私の急性中耳炎治療フロー


付3)成人の急性化膿性中耳炎
 成人は、元来、急性化膿性中耳炎にはなりにくいものである。理由として成人の耳管は狭く、長いため、鼻咽腔から、細菌が侵入しにくいとされている。
 成人が急性化膿性中耳炎になる場合、耳管機能障害がベースにあることが多い。その原因として、風邪に伴う急性鼻咽腔炎、アレルギー性鼻炎があるが、耳管開放症が関係していることがあるので、注意を要する。こういった基礎疾患がある状態で、強く鼻をかんだり、気圧の変化に遭うと中耳に細菌が侵入しても排泄されず、化膿性炎症を起こしてくると考えられる。
 治療法は小児の場合と同様であるが、積極的に鼓膜穿刺、排膿していくとよいと思う。成人の急性化膿性中耳炎では、疼痛を強く訴えることが多く、耳管機能障害がベースにあるため、治癒に時間がかかることがあり、また、滲出性中耳炎に移行していくことが多いので厄介であるが、その時の状態に応じて適切に対処していくことが必要であろう。
 最近、好酸球性中耳炎という病態があることが指摘されており、大人の中耳炎ではそういった病態になっていないか、注意を払う必要がある。
 飯野ゆき子先生は「大人の方が(急性中耳炎に)かかっても意外と早く治るという特徴があります」と言っていますが、私は反対で、治りにくいことが多いと思っています。
 また、松谷幸子先生によると、「成人ではムコイド型肺炎球菌による急性中耳炎(ムコーズス中耳炎)が重症化しやすく、激烈な痛み、多量の耳漏があり、骨導値の低下を伴うことが多い。」そうです。
付4)成人急性中耳炎での骨導低下
 急性中耳炎の経過中に骨導閾値上昇や、めまいなどが出現することがある。鼓膜の発赤や傍流、混濁、外耳道の発赤、腫脹がほぼ全例に認められる。耳漏は漿液性であることが多く、鼓膜切開すると、著しい中耳粘膜の腫脹と漿液性耳漏が多く認められる。
 聴力検査では聴力低下の程度は軽度〜中等度が多く、高音域の骨導閾値上昇が著明である。
 骨導閾値上昇については、炎症が内耳に波及し、内耳炎あるいは炎症性サイトカインなどによる内耳障害が原因であるとの考えが一般的であるが中耳腔内の貯留液や肉芽などの存在による見かけ上の骨導閾値の上昇とする考えもある。起炎菌としてはムコイド型肺炎球菌が比較的高頻度に検出される。
 治療としては、見かけ上の骨導閾値上昇を除外するだけではなく、内耳障害因子の量を減らすという目的から、鼓膜切開、排膿、場合によっては鼓膜チューブ留置を行い頻回に洗浄するなどの手段を行い、感音難聴に対しては突発性難聴に準じた治療(ステロイド薬、循環改善薬、ビタミン剤、ATP製剤など)を行うことが推奨される。ステロイドの漸減投与が行われることが多いが、基礎的検討からは現在のところデキサメタゾンが推奨される。
 予後は、抗菌薬やステロイドの投与で聴力は正常化している場合が多く、治癒率は40〜90%と予後は比較的良好である。中耳炎による感音難聴は発症後1〜2ヶ月の経過で治癒する症例が多いといわれている。聴力型と聴力の経過では高音障害型は平均16日間で治癒しているのに対し、水平型や他の聴力型は平均42日間の治癒期間を要し、遷延傾向を示したとの報告もある。治療開始時期については、発症から治療開始までの期間が7日以内の症例に治癒例が多いとの報告もあり、早期に治療開始することが重要である。
  (工田昌也:MB ENT.192::15-21,2016 より要約)
 平成29年2月2日改訂

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○難治性中耳炎
1. コレステリン肉芽腫症(高度耳管機能障害による中耳炎)
 耳管機能障害の中で耳管の器質的障害、特に耳管胸狭部で耳管の内腔が高度に狭窄している場合に生じる。
 通常1側の耳閉感、難聴、ときには茶褐色の耳漏を主訴に受診する。鼓膜所見で青色鼓膜を呈することが多い。
2. 結核性中耳炎
 結核菌の感染による中耳炎である。
3. 悪性外耳道炎
 通常であれば外耳道皮膚に限局している細菌や真菌の感染が、宿主の易感染性により軟骨、骨などの組織を進行性に侵す外耳道炎である。
4. 好酸球性中耳炎
 主に気管支喘息に合併し、極めて粘調な中耳貯留液を有するのが特徴である。
5. ANCA関連血管炎性中耳炎
 好中球細胞質抗体(AntiNeutrophil Cytoplasmic Antibody)が陽性となる壊死性血管炎が本体である。
 中耳炎型としては滲出性中耳炎型と肉芽型があり、前者が約6割を占める。
   (飯野ゆき子:日自費118、P1160-1163)

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〇好酸球性中耳炎
 好酸球性中耳炎について、その要点をまとめてみると
・成人発症型喘息・アスピリン喘息の患者に起こりやすい。
・好酸球性副鼻腔炎を伴うことが多く、鼻腔粘膜・鼻茸に好酸球の著しい浸潤がある。
・発症形態としては
 1.鼓膜膨隆型: 喘息の増悪時期に一過性に鼓膜の膨隆を生じ、切開すると膠状の貯留液と肉芽が鼓室内に充満している。
 2.急性中耳炎型: 鼻を強くかんだり、上気道炎罹患のとき、急性中耳炎として発症し、両側の滲出性中耳炎に移行し、中耳貯留液は初期には漿液性であるが、まもなく膠状になる。
・中耳貯留液からは多くの好酸球浸潤が観察される。
・初期には伝音難聴であるが、広範かつ高度の肉芽形成を生じると、骨導閾値が上昇する。飯野ゆき子によると「高音域から障害される点から、内耳窓を介して好酸球性炎症あるいは細菌感染による炎症産物が内耳に到達した結果生じるものと考えられる」とのことである。
・患者数は、2004年の調査から推計すると、人口10万人当たり約0.12人/年。(Nikkei Medical 2010.3)
・治療は鼓膜膨隆のみの場合は、プレドニン20〜40mgより漸減し1週間前後で終了できるが、肉芽形成が生じると難治である。
○好酸球性中耳炎の診断基準(好酸球性中耳炎研究会) 2010.2.10
大項目
  中耳貯留液に好酸球が存在する滲出性中耳炎または慢性中耳炎
小項目
  @にかわ状の中耳貯留液
  A副腎皮質ステロイド以外の治療に抵抗性
  B気管支喘息の合併
  C鼻茸の合併
大項目・小項目2つ以上に該当するする場合は、確実例とする。
ただし、Churg-Strauss症候群、好酸球増多症候群を除く。
総評:成人が急性中耳炎を起こすことは少ないが、難治のことが多く、その中には高頻度に好酸球性中耳炎が含まれているということを念頭におくべきかと思います。抗生剤を1週間程度投与して治癒しない場合は、好酸球性中耳炎の可能性を疑い、早期にセレスタミンを併用する。それでも長引くときには、躊躇せず、プレドニン30mgの使用に踏み切るべきであろう。
   平成23年10月17日 記

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○ANCA(AntiNeutrophil Cytoplasmic Antibody)関連血管炎性中耳炎(OMAAV(Otitis Media with ANCA-Associated Vasculitis))
・診断基準(案)
1. 抗菌薬または鼓膜換気チューブが奏功しない中耳炎
2. 進行する骨導閾値の上昇
3. 血清PR3-ANCAまたは血清MPO-ANCAが陽性
4. 生検組織で@またはAのいずれかがみられる。
 @巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎
 A小・細動脈の壊死性血管炎
5. 下記の疾患が否定される。
 @結核性中耳炎、Aコレステリン肉芽腫、B好酸球性中耳炎、C腫瘍性疾患(癌、炎症性線維芽細胞腫など)、D真珠腫性中耳炎、E悪性外耳炎、頭蓋底骨髄円、FANCA関連血管炎以外の自己免疫疾患による中耳炎及び内耳炎
6. 参考となる所見、合併症または続発症
 @耳以外の上気道病変、強膜炎、肺病変、腎美容編
 A顔面神経麻痺
 B肥厚性硬膜炎
 C多発性単神経炎
 D副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン換算で0.5〜1mg/kg)の投与で症状・所見が改善し、中止すると再燃する。

確実例:
1. (1または2)かつ5を満たし、既にANCA関連血管炎と診断されている症例。
2. (1または2)かつ(3または4)の2項目を満たす。
疑い例:
(1または2)かつ5と(6のうち1つ以上)の3項目を満たす。


○真珠腫性中耳炎
・5-FU軟膏による耳真珠腫の治療
 真珠腫上皮の異常増殖を抑えるために5-FU軟膏を使用する。
 真珠腫のdebris を清掃後、1回2〜3ml の5-FU軟膏を2週間に1度、合計で2〜5回にわたり、顕微鏡下に綿棒で耳真珠腫に塗布する。副作用はほとんどなく、難聴をきたした例は50人中1人もいない。(耳鼻咽喉科診療 私のミニマム・エッセンシャル 全日本病院出版会)
 私も何例かに試してみましたが、あまり効果がなかったような気がします。

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○滲出性中耳炎(耳管機能障害)
(この項については、本庄厳著: 滲出性中耳炎の正しい取り扱い (金原出版) を参考にしました)
@疾患名と成因について
 滲出性中耳炎という名称は、いかにも中耳に炎症があるようで、適切な病名ではないと思う。私は、「耳管機能障害」という病名が適当と考えるが、ここでは通称として、滲出性中耳炎という病名を使用する。病因として@上気道の炎症とA耳管障害が考えられているが、耳管換気能障害部位が耳管咽頭口付近であるといわれていることから、鼻咽腔の炎症などにより、耳管咽頭口の粘膜が腫脹し、耳管障害が起こるものと考える。
 また、小児では鼻漏が出ているときに、鼻をかむのを面倒くさがり、繰り返し鼻をすすっている光景をしばしば見かける。鼻をすすると中耳の空気が吸い出され、陰圧になって耳管の粘膜が引き込まれ、耳管が閉鎖してしまうことがあると思われる。
 老人では、鼻咽腔の炎症がなくても滲出性中耳炎を発症することがあり、通気しても通過がかなり悪いことがある。加齢に伴って耳管機能が低下して汚染され炎症が起こって、耳管の粘膜が広範に腫脹して狭窄しているものと考える。
 成人でも滲出性中耳炎を起こすことがあり、通気しても通過がかなり悪いことがある。この場合はアレルギー性鼻炎に伴う粘膜腫脹があるのかと考えている。
A症状
 耳閉感、難聴、耳鳴が主な症状で大人では、「高い山に登ったときのような感じ、トンネルに入った感じ」と訴えることが多い。小児では、症状を訴えないことがあり、親が難聴に気付いて受診することが多い。
B診断
 鼓膜をブリューニング拡大耳鏡で観察し、ゴム球で外耳道に加減圧を加えることにより、鼓膜の可動性を観察する。鼓膜に透明感があって、加減圧に伴い、前後に鋭敏に動くようであれば正常であるが、減圧時のみ前方に動くのであれば鼓膜が陥凹していると考えられ、また、小児によく見られる粘調な滲出液が溜まっている場合は、鼓膜表面にシワシワができる。成人によくみられる漿液性の貯留液の場合は、液面の上下がみられることもある。ただし、軽微な陥凹はティンパノメトリを行わないとわからないことがある。
 検査は、まず、気道純音聴力検査を行い、難聴の有無を確認する。難聴がほとんどなければ、あまり積極的な治療は必要ないと思う。次にティンパノメリを行うが、この検査は、難聴が軽微であっても鋭敏に異常のパターンを示すことがある。骨道検査は通常は必要ないと思われるが、気導検査の値が悪くて、ティンパノメトリが正常の場合は、感音難聴や耳硬化症、鼓膜、耳小骨の異常が疑われるので、骨導検査が必要になる。
 成人で、難聴がほとんどなく、ティンパノメトリもA型であるのに耳閉感を訴える場合がある。この場合は、耳管通気を試みるとよい。意外と耳管狭窄があることがある。
 耳管通気は治療法であるとともに、滲出性中耳炎の診断にも役立つ。耳管狭窄があれば狭窄音、滲出液があれば断続音がするので、検査の結果と合わせて総合的に判断する。
 通気後の鼓膜所見も大切である。鼓膜が膨らんでいれば通気度は良好であり、滲出液がある場合は、液面がはっきりしてくることが多い。
C治療
a)炎症の制御: 耳管咽頭口の炎症性腫脹を制御することが、大切である。副鼻腔炎が原因の場合は、抗生剤などの治療によりできるだけ治癒させる。アレルギー性鼻炎が原因になっている場合、内服薬及び点鼻液を使用して、腫脹を取り、常に鼻が通っている状態を維持するようにする。耳管咽頭口の炎症性腫脹が制御できなければ、滲出性中耳炎の治癒は困難である。
b)薬物治療: セファランチン、柴苓湯、ムコダインなどを使用したことがあるが、効果を認めたことはほとんどない。
c)耳管通気: 一般にポリッツェル球による方法と耳管カテーテルによる方法がある。効果の持続については、中耳の陰圧を目安にすると通気後数十分で元の陰圧に戻ってしまうというデータもあるが、時々、鼓膜を膨らませて、鼓膜の固着を防いだり、耳管を開存させるという意味で有効な治療法である。また、バルザルバ法により、自己通気ができるようになったら、朝夕行うよう指導すると、滲出性中耳炎が急速に治癒に向かう例がある。
d)鼓膜切開: 鼓膜切開を一度するだけで、滲出性中耳炎が治癒することは稀である。繰り返し、切開を行うと鼓膜の線維が切断され、瘢痕治癒が起こるので、私は鼓膜切開を行わない。
e)鼓膜穿刺: 穿刺孔は、ほとんど瘢痕なく治癒するので、繰り返し行ってもよい。また、穿刺孔より吸引することにより、かなり粘調な滲出液でも除去できるので、排液という意味では十分である。小児では、滲出液が溜まる度に1週間に1回づつ行ってもよいし、繰り返し行っているうちに滲出性中耳炎自体が軽快してくるものである。但し、患児の協力が必要である。
f)鼓膜チューブ留置術:
・適応: 成人の場合は、鼓膜穿刺を数回行ってもすぐに滲出液が溜まってしまう場合で、耳管機能の回復が得られにくいと思われる場合を適応としている。 小児の場合は、気長に通気療法と鼓膜穿刺を行っていると、時期がくれば自然治癒していくものであり、水泳に支障が出ること、将来チュープが抜けたあとに鼓膜が瘢痕化してしまうので、保存的治療で対処できない場合以外は原則として行っていない。
・使用するチュープ: 最近、専ら使用しているのは、KOKEN 鼓膜ドレイン Bタイプで、挿入しやすくするため、2ヶ所にハサミで切り欠けを入れて使用している。 KOKEN 鼓膜ドレイン Cタイプを使ったことがあり、TDプランジャーを使えば簡単に挿入できるが、抜けやすく確実性がないので使うのをやめた。 T型チューブを使用したこともあり、専用の器具を使えば挿入は容易であるが、管が長いため、閉塞しやすく、倒れてしまってきれいに保持できなかったのでやめた。
・手技: 鼓膜の麻酔には小綿球を4%キシロカインに浸したものを5分くらい、鼓膜にあてておく。その後、綿球を除去して溜まっている4%キシロカインを吸引除去する。4%キシロカインが残っていて中耳に入ると、後でめまいを起こすことがあるので注意が必要である。この程度の麻酔で、患者さんは痛みを訴えることはほとんどなく、特殊な鼓膜麻酔液やイオントーホレーゼは必ずしも必要ないと考えている。
 鼓膜切開は鼓膜の前下象限の中央を大き目に切開する。切開には専用の鼓膜切開刀があるが、私は21Gカテラン針にホルダーとして1mlシリンジを付けてメスの代わりにしている。極小鉗子で管の穴と外をつまんで、切開穴から内部フランジを挿入する。この時、切開が大きいほうが容易に挿入できるが、外部フランジが鼓膜の奥に入ってしまわないように注意して辺縁に引っ掛けておく。大きく切開しても、1週間程度で縮小してくるので、問題はない。
 術後の感染予防としては、タリビット耳科用液を朝夕、1週間程度点耳してもらうようにしているが、これだけで十分のようである。
・効果: 中耳の滲出液は、主に耳管を通して鼻咽腔に排泄されていくようです。つまりチューブを通るのは空気だけである。チューブが閉塞しても心配はいりません。チューブが入ってる限り、空気はチューブと鼓膜の間の隙間から十分入っていくようである。
 チューブは感染がない限り、ずっと入れておいて支障なく、患者さんも特に違和感を訴えることもない。数ヶ月入れておくと、滲出液が完全に排除され、滲出液による刺激がなくなるためか、耳管機能が回復してくることが多く、そうすればチューブが脱落したあとも再発はない。
・水泳について: チューブ挿入児でも、耳栓をすれば、水泳は可とする意見もありますが、小児の場合、耳栓使用が適切に行われることは少なく、プールの季節にはが中耳炎を起こしやすく困ります。
g)アデノイド切除術: 本庄厳によると、アデノイド切除術は、耳管咽頭口付近の炎症を改善させることにより、短期的には治癒までの期間を短縮することはできるが、3年後の治癒率では差がなくなっている、という。
Dその他
a)難治化する要因:
・乳突蜂巣の発育が抑制されている。
・耳管が高度に狭窄している。
・鼻すすりで中耳に陰圧が生じる閉鎖不全耳管。
b)滲出性中耳炎の経緯: 3,4歳で発生頻度が最も高く、7,8歳頃から自然治癒の傾向を示し、10歳までには多くが治癒にいたる、という。
c)コレステリン肉芽腫の成立には高度に障害された耳管と、遷延する上気道炎とが同時に存在することが必須条件、という。
d)真珠腫性中耳炎との関連: 滲出性中耳炎の治癒遷延例と中耳真珠腫とでは、耳管障害と上気道炎のいずれの点でも共通点が多く、難治性滲出性中耳炎が真珠腫発症のハイリスクグループとみなしうるが、直接移行する例はごく少数にしか認められない、という。
e)癒着性中耳炎: たわみやすい鼓膜があり、これに耳管の閉鎖不全や鼻すすりによる中耳の陰圧化が加わることで、鼓膜の菲薄化、さらに癒着という不可逆的な病態に至るプロセスが考えられる、という。 たわみやすい鼓膜は何故できるか、遺伝性に鼓膜の線維が少ないのか、急性化膿性中耳炎が遷延し、大きな鼓膜穿孔を起こし、その治癒過程で瘢痕性の薄い鼓膜で閉鎖するのか、鼓膜切開を繰り返したため瘢痕治癒するためか、わからないが、医原性に瘢痕鼓膜を生じる原因をつくることは慎まなければならないと思う。 
○オレ流の治療方針
a)小児
・副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎がベースにあることが多いので、積極的に治療する。
・耳管通気を定期的に行う。聞こえの悪い時は週に1〜2回、聞こえがそれほど悪くなくて、ティンパノメトリに異常があるだけの場合は1〜2週に1回、通院してもらう。バルザルバのできる年齢になったら、自分で耳ぬきができるように指導する。
・滲出液が溜まっている場合は、鼓膜穿刺を行う。
・時期がくれば、ほとんどの児は治癒に向かうので、根気よく治療を続ける。
・鼓膜の陥凹が強くなって、チューブ挿入したほうがよいと思われる例はまれであるが、必要に応じて病院に紹介する。
b)成人
・副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎がベースにあることは少ないが、ある場合には積極的に治療する。
・症状を訴えてきた時に耳管通気を行う。
・滲出液が溜まってきた場合には、鼓膜穿刺を行うが、繰り返し溜まってくることが多いので、長引きそうな場合には、積極的にチューブ挿入に踏み切る。

・軽度の滲出性中耳炎の場合で、鼓膜穿刺しても繰り返し滲出液が貯留する場合に、簡易なチュービングを行っている。22Gのサーフロ針を3cmくらいに切断し、鼓膜穿刺した後の穴に差し込んでおく。穿刺部は耳管への迷入を防ぐために、鼓膜の前下象限とし、サーフロ針を長めにしている。チューブが詰まってもチューブと鼓膜の隙間から結構空気が入っていくようである。自然脱落することも多いが、簡便な割には、結構効果がある。
                                     平成26年7月3日改訂

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○耳管開放症
@概念
 耳管とは、鼻と中耳をつないでいる管であり、通常は閉鎖しており、嚥下やアクビをする時に開いて中耳の気圧と外界の気圧を同じにして、鼓膜の可動性を最良の状態に保つ働きをしていると考えられる。耳管が開いたままの状態が持続すると、耳管開放症になる。
A症状:自声強聴と言って、自分の声が耳管を通って耳に到達して大きく聞こえる。また、鼻で強く呼吸すると圧力の変化で鼓膜がペコペコと動くのが感じられることがある。また、臥位になると、耳管が閉鎖して症状が改善することがある。
B原因:小林俊光は、体重減少、脱水、低血圧、中耳炎、外傷、シェーリング症候群、放射線治療による粘膜萎縮、扁桃摘出術後、口蓋裂、顎関節症、三叉神経切断、自律神経異常、ハンセン氏病、吹奏楽演奏が原因となることがある、としている。
 自験例では、鼻咽腔の炎症(感染性及びアレルギー性)で耳管咽頭口が腫れて、そのために耳管開放状態になるケースが多いように思われる。耳管咽頭口の内部が腫れると耳管狭窄症になるのに対し、耳管咽頭口の周囲が腫れると耳管が周囲に引っ張られて耳管開放症になるのではないか、と私は考える。
C検査所見:聴力検査をすると、低音部がやや低下していることがある。これは、太鼓と同じで、片面だけにしか皮を張らない太鼓は音が反響せず、大きな音が出ない。つまり、耳から入ってきた低音が中耳で反響しないで、耳管を通して鼻に漏れてしまうので聴力が低下すると考える。
D診断:「自分の声が耳に響く」という特異的な症状を訴える場合に本疾患を疑う。聴力検査、ティンパノメトリの所見も参考にするが、最終的には耳管通気を行って、軽微な圧力で空気が通過することで、確診する。
E治療
:小林俊光らは、生理食塩水点鼻療法として、スポイトを用いて生理食塩水を点鼻しているという。2週に一度処方しているが、実際には患者自身に点鼻回数、量を委ねているという。生食が耳管咽頭口に入り、塞ぐこと、また耳管粘膜を湿潤させることにより、症状を軽減させていると考えているという。湯浅涼らはプロタルゴール(プロテイン銀)を用い、良い結果を得ているというが、東北大では、ルゴール通気を行うことによって、耳管咽頭口粘膜に炎症を起こすことにより、耳管開放症状を軽減させるという。プロタルゴールとルゴールの性質の違い・治療効果の違いは検討していないので、今後の課題にしたいと思う(高田雄介,他:第115回宮城県地方部会,平成15年12月6日)と述べている。
 当院では、以前はプロタルゴールを1mlの注射器に0.3ml取り、耳管通気の際、ゴム管に針を刺し、送気と同時に一気に注入して、耳管に注入するという方法を行ってきたが、最近は病態の主体は炎症であるという考えから、リンデロン液の注入を行う治療法を行っており、まずまずの効果を得ている。いずれにしても、鼻咽腔の炎症を抑えることが大切であり、抗生剤や抗アレルギー剤を必要に応じて全身投与している。
 日本大学では耳管ピン挿入術を第一選択の手術療法として行っている、という。イオントフォレーゼ麻酔を行った後、鼓膜の前上象限を切開して耳管の方向にシリコン製の耳管ピンをゆっくり挿入し、鼓膜切開孔をベスキチン膜で覆うだけである。挿入する耳管ピンの全長は23mm、先端横径は1〜2mm、鼓室側の根部に近づくに従い幅は広くなる。この治療は約80%の症例に効果を認めている。ただし、術後に鼓膜穿孔の残存(28.0%)、滲出性中耳炎(14.7%)などの合併症の報告がある。(大島猛史:日耳鼻 119:1366-1372,2016)
付:鼻すすり型耳管開放症について:小児は、鼻漏が溜まったときに、鼻をかむことができなくて、鼻をすするクセがついていることがある。鼻をすすると中耳の空気が吸い出され、陰圧になり、耳管が閉鎖されると同時に耳管咽頭口の粘膜が圧迫され、その状態が長く続くと、粘膜の萎縮が起こり、耳管開放症になってくる。小児の滲出性中耳炎では、耳管通気度が良好なことが多いが、この鼻すすり型耳管開放症による中耳の陰圧が滲出性中耳炎の原因になっているのではないかと考える。治療としては、まず、鼻すすりの原因となっている鼻漏を止める治療が大切である。また、鼻はすすらず、静かにかむよう指導することが大切である。一時的には耳管開放症状が気になるが、しばらくすると粘膜の状態が改善して自然に耳管開放症状が消失してくるものである。鼻すすりが止まらないと、鼓膜が陥凹して、癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎を起こしてくることがあるので、注意が必要である。
                                                平成29年1月13日改訂

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○癒着性中耳炎
成因:鼓膜は3層構造になっていて、外側は扁平上皮で、内側は粘膜で、中間層に放射状線維と輪状線維があって、鼓膜の形態を保っているわけですが、中耳炎で大きく穿孔したあと再生した鼓膜では、線維組織が消失して、瘢痕状のペラペラとした鼓膜になってしまいます。そうすると中耳の軽度の陰圧でも大きく陥凹して中耳の粘膜に張り付いてしまいます。最初は、耳管通気で中耳を陽圧にすると膨らみますが、炎症などを起こすと中耳の粘膜に線維性に癒着してしまいます。耳管機能障害がベースにあること多くあります。
予防:鼓膜線維をなるべく傷つけないことが大切ですので、鼓膜切開はなるべく避けたほうがよいと思います。急性中耳炎による大きな鼓膜穿孔を避けるために、中耳炎の適切な治療が大切でしょう。やむを得ず、鼓膜がペラペラの瘢痕になってしまった場合は、癒着を防ぐために、鼓膜を浮かしておくことが大切です。頻回の耳管通気も悪くはありませんが、できればバルザルバ手技を患者に教えて朝夕自分でやってもらうのが理想的でしょう。鼓膜チューブ挿入を勧めている書もありますが、鼓膜が菲薄化しているため、大きな鼓膜穿孔になってしまう可能性があるので勧められません。鼓膜が浮いている状態になっていれば、長い間に収縮して緊張のある鼓膜になっていくようです。
手術:鼓膜が線維性に癒着してしまった場合の治療は手術しかありませんが、鼓膜を剥離したあとの中耳の後壁に粘膜がないため、再癒着してしまうことが多く、手術成績は悪いようです。
   平成23年10月18日 記

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○外傷性鼓膜穿孔
○オレ流の治療
  ・ベスキチンW T型(特殊薄膜)を穿孔より少し大きめに切り抜く。
  ・極小鉗子で穿孔部に持っていく。
  ・生食を染み込ませた綿棒でそっと押し付け、穿孔部を覆うように密着させる。位置がずれた場合は、23Gカテラン針でずらして穿孔部を完全に覆うようにする。
  ・1週間後に再診させ、もし、ずれて穿孔部が露出していたら、もう1枚重ね張りをする。
  ・1週おきに再診させて経過をみると、約1ヵ月で痂皮とともにベスキチンが浮き上がってきたら、除去すると穿孔は閉鎖している。
  ・外傷性鼓膜穿孔の場合は、ほぼ100%閉鎖できる。
  ・パッチしてもしなくても、穿孔閉鎖率は変わらないという説もあるが、パッチしたほうが閉鎖しやすいのではないか。
  ・感染を起こすと、治癒が遷延するということを言う人がいるが逆である。感染を起こした場合、当然、抗生剤を投与するが、急性中耳炎の穿孔の治癒過程と同じで、治癒促進因子?が働いて治癒が促進され、1週間程度で穿孔が閉鎖してしまうことが多い。

     (参考:三代康雄 MB ENT,192::11-14,2016)
     2017年1月31日 記

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